北森 鴻 「虚栄の肖像」(文春文庫)

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花師と絵画修復師の二つの職業を持つ佐月恭壱の美術ミステリー。

このシリーズの第1作目は「深淵のガランス」なので、両方とも未読の人は、そちらの方から読んだ方が、主人公と仲のよい酒場の女性経営者だとか、彼女の父親、あるいは主人公がなぜ大けがをしたのか、といったことに悩まなくてすむかもしれない。

収録は
「虚栄の肖像」
「葡萄と乳房」
「秘画師遺聞」
の三作で、それぞれ絡んでくる美術品は、古備前の甕と素人の描いた肖像画、藤田嗣治の絵、浮世絵っぽい緊縛画。

そして、それぞれの修復をめぐって、虚実ないまぜ、どんでん返しの連続ってなことになるのは、いつもの北森ミステリーで、最後の頁にたどり着くまで、読者を安心させないのは、さすがといわざるをえない。
おまけに、普通の人には、全くといってなじみのない「絵画修復」という世界の、あれこれのエピソードは異世界につれていかれるようで、わくわくする、という他言いようがない。


例えば、焼けて、亀裂の入った画の修復をする場面

まず、本絵よりふた廻りほど大きいキャンバスの枠を用意する。・・・帆布を、一定の張力をかけて張るのである。表面に膠を塗りつけ、程よく乾いたところへ、例の肖像画を静かに貼り付ける。乾燥を待ってキャンバスからはずせば、帆布はかけられた張力より解放され、本来の姿に戻ろうとする。・・・
「なるほど、そうすると貼り付けられた絵は」
「帆布によりそうかたちで収縮する。ことに亀裂部分を中心にしてね」(虚栄の肖像)

といった具合。どうです、ちょっとわくわくするでしょ。

解説などによると、北森 鴻は、取り上げるテーマに関わっている多数の人々に徹底的にインタビューして、ディテールをつくりあげていくらしい。そうした積み重なった実話が、これらのミステリーの厚みにもなているのだろう。

そして、この巻で、主人公の過去、昔の恋人も含め、家族関係や、彼の青春時代などが少しづつ明らかになってくる。作者の急逝がなければ、この後に書かれたであろう物語で、もっと明らかになってきたであろうに残念でならない。

ついでにいうと、この3つの短編の重要な狂言廻しが、冬狐堂こと宇佐見陶子。「狐罠」などで彼女のファンになった人にも、オススメである。

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このページは、辺境駐在員が2011年4月 4日 21:58に書いたブログ記事です。

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