北森 鴻 「深淵のガランス」(文春文庫)

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花師にして、絵画修復師でもある佐月恭壱の活躍する美術ミステリーの第1作。

私は、最初に2作目である「虚栄の肖像」を読んでしまったので、そちらの設定を確認をしながら読み進める。

収録は

「深淵のガランス」
「血色夢」
「凍月」

の三作


修復の対象となるのは
「深淵のガランス」は大正末期に活躍した画家で、今は孫が保管する数点の絵画
「血色夢」は絵画ならぬ、古代人の描いた洞窟壁画の修復
「凍月」は、地方の喫茶店に飾られている、その絵を描いた画家の娘(彼女はその喫茶店の経営者でもあるのだが)の保有する「バークロード・冬」という絵画



となっているのだが、話の中で絡んでくるのはその美術作品だけではない。「深淵のガランス」ではその修復される絵画に封印された下絵であり、「血色夢」では洞窟壁画とか全く関係のないところで展開する、分割された名画であり、「凍月」は、「バークロード・冬」と対になっているといわれる幻の「バークロード・夏」、といった具合で、主線である絵画修復に、複線の絵画探しや、別の絵画修復が絡んできて複雑な展開を見せる。

そして、絵画修復の過程で、絵画のワニスを「剥がし」たりするのだが、実は剥がしているのはワニスだけでなく、その絵と画家が隠していた秘密であるし、「修復」されるのは長い年月の間に埃が付着し、誤解にまみれてしまった、依頼人の思い出であり隠された優しさでもある。


このあたり、さすが北森ミステリーといった展開が続くので、作者の手にのって、うかうかと読み進むのがいいだろう。

そして、もうひとつの楽しみが、そこかしこに散りばめられた、絵画や絵画ビジネスにまつわるエピソード。

例えば

時代によって絵の具の成分も違い、同じ「白」でも大正時代は鉛を原料としたするシルバーホワイトが多用されされたが、今は亜鉛原料のジンクホワイトが用いられているので、それぞれの「色」も微妙に違う。そのオリジナルに近い色を出すためにアクリル絵の具を使うのだが、アクリル絵の具では「厚み」がでない

とか知ってました?(私は全く知らなかった)


絵画好きな人も絵画にはほとんど知識のない人も、どちらも楽しめるミステリーである。

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このページは、辺境駐在員が2011年4月 9日 13:25に書いたブログ記事です。

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