2006年7月16日

藤原伊織 「テロリストのパラソル」(講談社文庫)

この作品が、江戸川乱歩賞を受賞したときに、全共闘色が強いとか、学生運動の名残とかいろんな批評がされたらしい。

すでに全共闘、全学連も遠くなり、オウム真理教すらもかなり時間を経た今となっては、ちょっと古びたテロ犯罪のミステリとなっているようだが、どことなくノスタルジックに読めるのは、青春時代を引きずっているような主人公のアル中の中年バーテンダーと事件の謎も、これまた青春時代の復活みたいなところがあるからだろうか。


事件らしい事件は、冒頭の公園での爆弾テロ事件のみ。のみ、といっても昼下がりの日曜日でにぎわう都心の公園での爆弾テロだから、犠牲者は多いし、おまけに警察のエリートが娘と一緒に事件にまきこまれていたり、主人公が若いころ別れた恋人と、別れた原因となった主人公の闘争仲間も犠牲となってしまうという、なにやら過去の因縁が一挙にでてきそうな設定である。

で、期待に違わず、昔の恋人の娘が主人公に絡んできたり、広域暴力団が主人公の口を封じようと(事件の時に黒服の男を目撃した程度のことなのだが)執拗に襲ってきたりとか、主人公が学生時代に爆弾テロ事件を起こしている(1971年に事件を起こして22年間経って時候が完成している状況)ことから、今回のテロ事件の犯人として手配されたり、あれよあれよと展開していくのだが、それなりにテンポよく読ませるところが、流石、乱歩賞受賞と直木賞のダブル受賞作といったところか。

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2006年7月15日

黒岩重吾 「子麻呂が奔る」(文春文庫)

聖徳太子の腹心 秦 河勝の部下 子麻呂が斑鳩の里の事件を解決していく古代を舞台にした時代ミステリー。

収録は「子麻呂と雪女」「二つの遺恨」「獣婚」「新妻は風のごとく」「毒茸の謎」「牧場の影と春」の6編。

時代ミステリーといえば、せいぜい江戸時代の捕物帖が普通だろう。それを古代、とりわけ正史の事実の真偽すら定かではないところもある飛鳥時代に材をを求めながら、古代の時代風情をたっぷりと味あわせながら、きちんとしたミステリーに仕上げているのは、文壇(ちょっと古い表現だね)の重鎮 黒岩重吾氏の手練の技だと思う。


さて、それぞれにレビューすると、一話目の「子麻呂と雪女」は、子麻呂が冬の里で、雪女に見紛うような美しい女(キヌイ)を助ける話。この娘と子麻呂はなにやら怪しげなというか、恋愛沙汰のような関係になってしまうように思っていると、なんと、子麻呂が娘の国家的な大仕事の練習台に使われていることが明らかになるあたり、中年男のワビシサは、ちょっと我が身に凍みる。


二話目の「二つの遺恨」は、真面目に学問をしていると思った息子が、実は最近学校をサボっている。何故か、という理由探しと、斑鳩の里でおきた村の古くからの無冠ではあるが豪族(平群氏の郡司)の一族の一人と農民とのイザコザの理由さがしが並行して展開する。まあ、息子の方はm親の因果が子に報いといった感じの、息子の学校の教師の逆恨みなのだが、村の方は、この時代の古くからの氏族が衰え、新しい位階制度のもとで新興勢力が台頭していく様子が反映されていて、なにやら現在の様々な姿を彷彿とさせる。

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2006年7月11日

倉知 淳 「日曜の夜は出たくない」(創元推理文庫)

仔猫のようなまん丸い目をした小男で、定職にはついてはいない。どうやって生計をたてているかは全く不明だが、時推理をさせたら抜群の才能を示す、「猫丸先輩」が登場する倉知 淳さんのデビュー作である。

収録は「空中散歩者の最期」「約束」「海に棲む河童」「一六三人の目撃者」「寄生虫舘の殺人」「生首幽霊」「日曜の夜はでたくない」の7作。
デビュー作ではあるが、それぞれに風味のかわった作品ばかりが用意されている。


最初の「空中散歩者の最期」は、男が墜落死している。ところがあたりの高いビルなどの建造物からは離れたところに落ちており、まるで空中を散歩している途中に、不意のアクシデントで落下して死んだような感じの事件の死因を推理するものであるし、「約束」は、公園でお話をするのを常としていた少女と中年の「おじさん」。その「おじさん」が公園で睡眠役自殺を遂げる。少女に自分の汚職を告白し、警察に自首することにするが、その前にもう一度少女に会って手品を見せる約束を果たさずに死んでしまった中年男の死の謎を解き明かすもの。
ちょっと間を飛ばして「日曜の夜は出たくない」は、恋する相手の男と別れた日曜の夜は近くで通り魔事件が頻発する。もしや、その男性の仕業では、と気をもむ女性の心配を晴らすといった風である。

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2006年7月 9日

松尾由実 「ジェンダー城の虜」(ハヤカワ文庫)

ジェンダー城の虜

「バルーン・タウンの殺人」でデビューを飾った松尾由実さんの第2作。
今度は長編推理である。

今度の舞台は、団地なのだが、この団地、「夫は家事、妻は仕事」といった風に夫婦が役割を逆転させて生活しているか、あるいは同性愛の夫婦といった、ジェンダーを逆転させるか、ジェンダーを無視した人達しか住むことが許可されない(この団地、ある金持(水野真琴、というどうやら双子の片割れの女性)が自治体に寄付してつくった団地で、そこの入居もその金持が権限を持っているという設定だ)団地での事件である。


発端は、ここの団地に住むぼく(谷野友明)のクラスにアメリカ帰りの美少女(小田島美宇)が転校してくるところから始まる。
この小田島家。ジェンダーを逆転させているわけではなくて、小田島美宇の父親の小田島修は、料理とかもほとんどできない、どちらかというと亭主関白な方なのだが、そんじょそこらの家庭では真似のできないところを、この団地の寄付者にして町内会長の水野真琴に見込まれて、入居を許可されたらしい。なんと、この父親の職業、「マッド・サイエンティスト」なのだ。「マッド・サイエンティスト」っていうのが職業になるのかよくわからないのだが、乱暴に意訳すると、いろんなジャンルに顔を突っ込んで、学際的なパテントや特許をもっている人ってな具合かな。このキワモノぶりを買われて、水野町内会長の依頼で重要な機械をつくるよう頼まれたという次第である。

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2006年6月25日

北村 薫 「覆面作家の夢の家」(角川文庫)

”外弁慶”のお嬢さま 新妻千秋さんの登場する「覆面作家」シリーズもこれで最終巻。 推理世界の編集者 岡部了介とのコンビの息もぴったりあってきた感じだ。

収録は「覆面作家と謎の写真」「覆面作家、目白を呼ぶ」「覆面作家の夢の家」の三作。


まずは、「覆面作家と謎の写真」。このお話で、岡部了介の兄で刑事をやっている岡部祐介が、了介の「推理世界」のライバル誌、小説ワルツの編集者 静美奈子さんと結婚する運びとなる。

その会場「イワトビペンギン」で出会った、鳥飼さくらさん(この人も小説わるつの元編集者という設定だ)のもちこんだ事件。

事件の中身は、ディズニーランドへ友達で連れだって遊びにいって写真をとったが、その写真の一枚に、今はニューヨーク支社に転勤になっていて日本にいないはずの編集者の同僚が撮影されていたというもの。
まあ、ニューヨークに転勤した本人は生きているし、迷惑かけないなら生き霊ぐらいうっちゃっておけばよいのでは、と思うのだが、この謎を、お節介にもお嬢さまが解いてしまうという展開。

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2006年6月24日

井沢元彦 「織田信長推理帳 五つの首」(講談社文庫)

織田信長が探偵役を務めるミステリーである。織田信長といえば、癇癪持ちだが、頭もすごくキレそうなイメージがあるので、探偵役としては、結構うってつけかもしれない。


この「五つの首」は、まだ都へ上洛する前、美濃の斎藤龍興を、堺に追い払ったあたりで、織田家がまだまだ登り調子で、信長の癇癖が原因の暗雲はまだかけらもないような時期の設定である。


この時期、上洛の足掛かりを何も持たない信長としては、錦の御旗というか、上洛する何かのシンボルが必要だったのだろう。この話は、そのシンボルとなる「足利義昭」を越前朝倉家から、岐阜へ迎えようとする際におきる信長暗殺の謀略にまつわるミステリーである。

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2006年6月22日

ダン・ブラウン 「ダ・ヴィンチ・コード」

昨日の夕方から雨模様で、本当に梅雨になったのかな、と実感。

やっと「ダヴィンチ・コード」文庫本 全3巻を読み終えた。かなり時間がかかってしまったなー、というのが実感。
仕事の方も、ちょっと忙しくなっていたのも読み進めなかったのも一因ではあるのだが、やはり「キリスト教」というあたりが、読み飛ばしていけなかった大きな原因なのだろう。

筋書き的には、イエス・キリストとマグダラのマリアとの関係について、ある秘密結社(「シオン修道会」というらしい)が、カトリック教会(というより、教会をはじめとするキリスト教全般)の目から秘密を守り通してきた。その過去の総長の一人がレオナルド・ダ・ヴィンチで、彼は秘密に関する様々な示唆を絵画をはじめとする作品の中に残している、というのが底流にある流れ。

発端は、この秘密結社の現代の関係者と(と後でわかる)思われるルーブル美術館の館長が殺される場面から。
死体には自らが細工したと思われる「ダビデの星」やらブラックインクのダイイング・メッセージやらなにやら奇妙な仕掛けがあって、この館長の孫娘と犯人に間違えられたアメリカの学者が、その謎から導き出されるキリストの謎を解き明かしていくという展開である。

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2006年6月21日

松尾由美 「バルーンタウンの手毬唄」(創元推理文庫)

翻訳家兼妊婦探偵 暮林美央シリーズの3冊目である。

二人目の子供、砂央を出産した後の美央のもとに、「バルーンタウンの手品師」から登場した東都新聞の家庭欄の記者 友永さよりが訪れて、今まで公になっていない事件の話を聞いていくという設定になっている。

暖炉前の引退した名探偵から、若い人(小説家や新聞記者)が昔話を聞くという、ミステリーの一つの定番をしっかりなぞってある。たしか、岡本綺堂の「半七捕物帳」も同じような設定だったよね。


収録は「バルーンタウンの手毬唄」「幻の妊婦」「読書するコップの謎」「九カ月では遅すぎる」の4編。

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2006年6月20日

高野和明 「十三階段」(講談社文庫)

犯行時刻の記憶を失ってしまい死刑囚にされている男、「樹原」の冤罪を晴らすため、刑務官と、前科を持つ青年が調査に乗り出すという筋立のミステリー。 書名の由来は、死刑が執行される絞首台の階段数が13であるように言われているところなのだが、どうやら13段の絞首台がつくられたことは、巣鴨プリズンの絞首台を除いて日本ではないらしい、と書中にある。この巣鴨プリズンのものはアメリカ軍作成らしいから、この13というのは、やはりキリスト教盛んなところの風習なのだろう。

このミステリー、最初は、死刑囚が刑の執行のために呼び出される場面から始まる。ページ数にしてはさほど割かれていないのだが、呼び出される男が暴れ、咆哮し、嘔吐する様子が、「樹原」を通して描かれているあたり、かなり陰惨な滑り出しである。
さらに、出所者の出所してからの様子を冷静に書き出しているあたりは、最初の死刑の呼び出しの場面と同じく気が滅入るものではある。例えば、被害者への賠償で工場や家を手放している青年の両親とか、学校を止め、家をでた弟とか、犯罪というのが被害者だけでなく加害者の家族を巻き込むものであることを思いしらされる。


さて、探偵役というか主人公が、刑務官というのも珍しいが、それと前科をもつ出所したての青年というコンビも珍しい。

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2006年6月11日

鯨 統一郎 「新・世界の七不思議」(創元推理文庫)

バーテンダー松永のバーで繰り広げられる、大学で世界史を専攻している早乙女静香と、民間の与太話的歴史の謎解明を行う雑誌ライター 宮田六郎との、歴史バトル第2弾である。


収録は「アトランティス大陸の不思議」「ストーンヘンジの不思議」「ピラミッドの不思議」「ノアの方船の不思議」「始皇帝の不思議」「ナスカの地上絵の不思議」「モアイ像の不思議」の7篇。

どちらかといえば、日本歴史やアジア歴史の謎対決が多かった、前作に比べ、今回は、とんでもなくグローバルになっている。


しかも、今回のバトルの証人となるのも話がグローバルになったにふさわしく、アメリカはペンシルバニア大学の教授で古代歴史学の権威 ジョゼフ。ハートマン教授である。

で、この教授の前で、早乙女静香と宮田六郎の歴史謎解きバトルが始まるのだが・・・案の定、宮田の推理はキテレツである。

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2006年6月10日

鯨 統一郎 「邪馬台国はどこですか」(創元推理文庫)

ちょっと人を食ったミステリーをいくつも発表している鯨 統一郎氏のデビュー作である。


舞台は、素人に毛の生えた程度のバーテン 松永が勤めるバー.
大学の文学部の教授で日本古代史を専攻している三谷教授と同じ大学の助手の早乙女静香、そして民間の研究家らしい(職業限りなく不明状態の)宮田六郎三人が、酒を飲みながら、世界史の大事件や謎について、推理を与太をとばす、という設定の、なんとも人をくったような設定である。

収録は「悟りを開いたのはいつですか?」「邪馬台国はどこですか?」「聖徳太子はだれですか?」「謀反の動機はなんですか?」「維新が起きたのはなぜですか?」「奇蹟はどのようになされたのですか?」の6篇。

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2006年6月 5日

松尾由美 「バルーン・タウンの手品師」(創元推理文庫)

妊婦探偵 暮林美央の登場するバルーン・タウンシリーズの2冊目。


今回の収録は、「バルーン・タウンの手品師」「バルーン・タウンの自動人形」「オリエント急行十五時四十分の謎」「埴原博士の異常な愛情」

この本で、美央さんが二番目の子供を妊娠していることがわかり、再びバルーン・タウンに戻ることになる。一人ならずも二人目までも、あっさり妊娠してしまうとは、実は、この暮林夫婦、実は、婦唱夫随よろしく仲がとんでもなく良いのでは、と思ってしまう。ついでに、バルーンタウンの隠された謎にまで迫ろう、という2冊めなので、美央ファンは必読。

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2006年6月 4日

松尾由実 「バルーンタウンの殺人」(創元推理文庫)

翻訳家にして妊婦探偵の暮林美央が登場するバルーンタウンものの第一作である。少し前に「赤ちゃんをさがせ」といった助産婦探偵ものを読んだついでに、この「バルーンタウン」シリーズ、妊婦探偵ものをレビューしよう。


話の舞台は、近未来。人工子宮が発達した中で、あえて昔ながらにお腹で赤ちゃんを育て、出産をすることを望んだ女性たちが、出産までの間を穏やかに暮らすためにつくられた街、バルーンタウン(散文的にいうと東京都第七特別区というらしい)である。

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2006年5月31日

青井夏海 「赤ちゃんがいっぱい」(創元推理文庫)

前作「赤ちゃんをさがせ」で、ワトソン役の聡子さん、陽奈ちゃん、ホームズ役の「伝説のカリスマ助産婦」明楽先生の最強の助産婦シリーズの2作目で、今回は長編。


ところが、聡子さんは、元ダンの宝田さんとヨリを戻して、2番目の子供ができた為に、育児休業中である。大事な収入源と栄養調達源が休業中に、なんと陽奈ちゃんは。アルバイト先の助産院をリストラされてしまうのである。

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2006年5月26日

青井夏海 「赤ちゃんをさがせ」(創元推理文庫)

「スタジアム 虹の事件簿」で自費出版デビューした、青井夏海のユーモアミステリー第2弾。


今度はワトソン役もホームズ役も助産婦さんである。ワトソン役を務めるのは、自宅出産専門の出張助産婦の聡子さんと陽奈(ひな)ちゃんの二人組。そしてホームズ役は、二人の報告を聞いて推理をめぐらす「伝説のカリスマ助産婦」明楽先生という設定である。

分類すれば、安楽椅子探偵の分野に入るのだろうが、ワトソン役の一人、駆け出し助産婦の陽奈ちゃんのドタバタした、とんでもなく明るいところが、こうした安楽椅子探偵ものによくある取り澄ました感じをなくしている。


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2006年5月20日

北村 薫 「覆面作家の愛の歌」(角川文庫)

「覆面作家は二人いる」でデビューした、外弁慶(?)のお嬢さま 新妻千秋さん登場の第二作目である。 収録は「覆面作家のお茶の会」「覆面作家と溶ける男」「覆面作家の愛の歌」の三作


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2006年5月18日

北村 薫 「覆面作家は二人いる」(角川文庫)

ミステリ雑誌の「推理世界」に、新人賞応募〆切をすぎた原稿が送られてくる。 箸にも棒にもかからない応募原稿かな、な、と思ったら、「面白い。着想といい展開といい、非凡である。・・・ただ、ところどころ確かに妙である。テレホンカードというものが何なのか分っていなかったり、突然世にも難しい言葉が出てきたり、取ってつけたような手順(!)のおかしなベッドシーンがあったりする」というわけで、「推理世界」の中堅編集者の岡部了介は、有望(そう)な新人ミステリー作家を担当することになる、といったところからスタートする。

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2006年5月 2日

井沢元彦 「義経はここにいる」

いまさら「義経伝説」かなー、おやじの定番 大河ドラマも戦国時代に移ったしねー、とは思ったのだが、リサイクルショップに安く出ていたので、あまり考えずに購入。


で、読みはじめたのだが、そこらあたりの「義経北行伝説」を無責任に煽るものではなかった。
むしろ、奥州平泉の当時の情勢や仏像の様式まで、幅広くとりあげながら、岩手の地元大企業におこる殺人事件と「義経北行伝説」を双方とりまぜながら展開していっている。


文庫本の解説で「物書きの世界には「化ける」という言い方がある。ある瞬間に大きく飛躍した状態を言うのだが、まさに井沢君はこの作品で化けた」と、歴史ミステリーを得意とする同業者の高橋克彦に言わしめているように、信長もののミステリーから「逆説の日本史」にまで至る、「言霊」「怨霊」をキーワードにした歴史理解へとつながっていく、記念碑的作品といってよいであろう。

と、いうことで、筋立は、岩手県で幅広い分野の事業を一手におさめる佐倉グループの一人娘の婿探しのところからスタートする。
実の息子達が三人もいながら、末娘に婿をとって事業を継がせるっていう設定は、匈奴や蒙古の遊牧民族の末子相続でもあるまいし、ちょっと設定としてどうかいな・・・と思っていたら、最後の方で、しっかり「義経」と結びつける仕掛けになっているので要注意。

事件自体は、この一人娘の佐倉志津子の結婚相手となった森川義行が殺される。しかも、婚約披露のパーティーに酒樽に切断された首をいれた状態で発見されるという、ちょっとグロな設定。
義行が殺されたと思われる時刻に下関で、志津子の兄とシンポジウムに出席していた、このミステリーの探偵役の古美術商、南条 圭は、昔、志津子の結婚相手に所望されながら断った経緯から、この謎解きに乗り出すことになる、っていうのがおおまかな筋立。

この現代での殺人の謎解きを主テーマに最初のうちはしておきながら、「義経は平泉で本当に死んだのか」という現代の事件とは、およそ関係のなさそうな歴史の謎解きを並行させていき、実は、この歴史の謎の解答が、現代の事件の解答にもなっているというアナグラムを成立させる、という典型的な歴史ミステリーに仕上っている。

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2006年4月30日

芦原すなお 「嫁洗い池」

「ミミズクとふくろう」に続く、八王子に住む、売れない作家の「ぼく」と「妻」の、ふんわりとしたミステリーである。話の都度、警察署を異動している、同級生の「河田警部」もすこぶる元気である。 収録は、「娘たち」「まだらの猫」「九寸五分」「ホームカミング」「シンデレラの花」「嫁洗い池」の6篇。

前作では、河田警部が持ち込んでくる事件ばかりでなく、「ぼく」が出くわす事件もあったのだが、今回は河田警部の持ち込み事件がほとんど。おまけに、この警部、「ぼく」の「妻」に事件を依頼する時には、持ち込んでくる(もちろん、料理してもらった後は、警部も盛大に食べるのだが)郷土の食材も、このミステリーを読むときの別の楽しみのひとつ。


一つ目の「娘たち」は「河田警部」の同僚の「岩部氏」の家出してしまった娘さんの捜索。娘さんというのは、まじめな女子大生で、成人式に父親の買った晴れ着を着る約束をしていたのに、成人式前に家出をしてしまった、という設定。
ネタバレは、「お父さん、あんまり厳しくすると、娘さんがグレちゃいますよ」といったところなのだが、高校生の娘をもつ父親の私としては他人亊ではない。

で、この娘さんを探しに六本木のクラブなぞを訪ねるのだが、「この町はすかん」といった河田警部の感想や、僕の「いい身なりの若い娘もずいぶん多い。華やかなものだ。日本にはやっぱり金があり余っているようだ。」という表現がある。ほかのところに「アトランタ五輪」というキーワードが出てくるから、1996年あたり、バブルがはじけて、「失われた十年」のまっただ中のあたりの東京、六本木を思い浮かべると「なるほどね」と、いくつかの徒花を思い出す。


二つ目の「まだらの猫」は、密室殺人事件。ある金持が離れで殺される。扉には、密室だから当然鍵がかかっていて被害者の首には毒を塗った吹き矢が刺さっていた、という事件。ネタバレは、吹き矢は殺人の道具ではない、というところや、やたら元気で脂ぎっていた被害者に苛められてきた人間の逆襲といったところ。

この篇で、高松の郷土料理らしい、「アラメ」と「ヒャッカ」というものが登場。前者は海草、後者は葉野菜らしいのだが、現物にお目にかかったことがないので、味の論評はできない。文中の表現を信用すれば、「それぞれを熱いご飯に載せて食べると、もう、あんた。」というぐらいらしい。

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2006年4月29日

青井夏海 「スタジアム 虹の事件簿」

野球をまったく知らないのに、夫の死に伴って「東海レインボーズ」のオーナーとなった虹森多佳子。彼女は、いつも優雅なドレスに身を包み、球場に訪れるのだが、なぜか、野球場周辺で奇妙な事件に遭遇してしまう。

おっとりした口調で、彼女が謎解きをするのとあわせて、万年最下位チームの「東海レインボーズ」が、どういう風のふきまわしか優勝争いに食い込んで行く、というミステリーとスポーツドラマをあわせたような構成のミステリー。

収録は

「幻の虹 ー東海レインボーズ対京華チャレンジャーズ 1回戦」
「見えない虹 ー東海レインボーズ対札幌ポラベラーズ 4回戦」
「破れた虹 ー東海レインボーズ対北九州スキップジャック 13回戦」
「騒々しい虹 ー東海レインボーズ対中央フリークス 18回戦」
「ダイヤモンドにかかる虹 ー東海レインボーズ対難波マシンガンズ 26回戦」

と、シーズンの最初から、優勝決定の試合までの、野球の1シーズン。

第1話の「幻の虹」は、虹森多佳子オーナーの初登場作。彼女が野球観戦をしている近くで遠慮容赦ない野次を飛ばしている関西弁の3人組(話の最後の方で関西の人間ではなく、関西の野球の応援の様子に惹かれて、見様見まねで関西弁を使っている仙台人であることがわかるのだが)。彼らの近くで、野球をみるでもなくスコアボードを気にしていた陰気な男が、突然、鞄にいれた一万円札を撒きはじめる。その男のいうには、息子を誘拐した犯人から、この野球場でお金を撒くよう脅迫されたというのだが・・・、という事件。

途中でおきる殺人事件と絡んで、アリバイづくりもうまくやらないと、アリバイづくりにならなくなる、とりわけ金が撒かれると、我を忘れる人間はでてくるからねー、というあたりがネタバレか。


第2話の「見えない虹」は 野球を通じて知り合ったペンフレンドが、始めて会ってデートをする話。しかし、女性の方は容貌に自信なく、つい美人の妹の写真を自分だと偽って、男へ送ってしまっていた。彼女は、妹が急病になり、申し訳ないので謝りにきた姉、という設定で、彼氏と大ファンの東海レインボーズの試合を見ることになる。ところが、球場周辺で、高校の教師(かなりねちっこく生徒をいじめる教師だったらしい)が、自宅でヘッドフォンをつけたまま撲殺されるという事件がおきていて、彼氏が、その高校の卒業生、おまけに、その教師にいじめられて高校を退学したということがわかり、殺人犯人と疑われることに・・・、といったもの。

ちょっと犯人に疑われることになるきっかけが唐突かなー、と思わないではないのだが、このカップルの将来に免じて許すとしよう。ネタバレは、生徒をいじめにひっかける道具にヘッドフォンカセットやラジオを使っていた教師が、ヘッドフォンを好んでつけるか、といったあたり。

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2006年4月23日

黒崎 緑 「しゃべくり探偵の四季ーボケ・ホームズとツッコミ・ワトソンの新冒険ー」

見事な「しゃべくりミステリー」、というか「漫才的ミステリー」というか、あっとおどろくミステリーの叙述の新方式を披露した「しゃべくり探偵」の続編である。


収録は「騒々しい幽霊」「奇妙なロック歌手」「海の誘い」「高原の輝き」「注文の多い理髪店」「戸惑う婚約者」「怪しいアルバイト」の7篇。

ところが、「しゃべくり探偵」で見せた「保住」と「和戸くん」のコンビのしゃべくりミステリーは最
初の2篇までで、あとは、「保住」は、第三者のように事件の当事者たちの周辺にぼやっと現れてきては事件を解決していく(「注文の多い理髪店」に至っては店主の話の中にしか登場してこない)という、存在感が、大阪のたこ焼のように、どーんとあった前回とくらべ、なんとなく軽やかである。とはいっても、安楽椅子探偵は健在。事件の関係者からの聞き取りで、事件を推理してくという構図は変わらない。


第1話の「騒々しい幽霊」は「和戸くん」の妹が結婚することになり、新居を祖母の住んでいた家に構えたのだが、そこに幽霊、というかポルターガイストがでる。
人気がないところで電灯がついたり、茶碗や皿が割れている。しかも、その茶碗や皿は、家に置いてあるものとは違うものばかり、というもの。ネタは、最近の「お宝ブーム」に象徴される古びた皿や茶碗が原因で、伏線の張り方が見事なのだが、それにもまして、和戸の妹の顔をネタにした、関西の漫才さながらの、かけあいが楽しめる。


第2話は、「奇妙なロック歌手」。
最近売りだしそうなアマチュア・ロック・バンドを結成している友人の家が盗みに入られる。それも、送った覚えのない懸賞の温泉旅行に当選して旅行している最中のこと。
どうやら、その懸賞自体が、仕組まれたものらしい感じがするのだが、盗まれたものは旅行料金をちょっと上回るぐらいの現金とエレキギター。エレキギターは近くのごみ捨て場に捨てられているのが発見されるから、どうも仕掛けのわりに儲からなかった窃盗事件。しかもエレキギターは、捨てられていたのをチューニングしたら、音がよくなったらしいから、盗難にあったほうも、あながち損ばかりではない。といった妙な事件の謎。

ネタバレは、若気の至りを、後で責任をとらないといけなくなるとは、しんどいよねー、といったあたり。ヴィンテージギターがどんなものか、よくわかっていないので、つまらない寸評はやめよう。

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2006年4月22日

黒崎 緑 「しゃべくり探偵 ーボケ・ワトソンとツッコミ・ホームズの冒険ー」

全編、関西弁の「しゃべくり」という、なんとも大阪っぽいミステリーである。


配役は、ホームズ役が「保住」、ワトソン役が「和戸くん」で、保住がツッコミ、和戸がボケという妙なとりあわせで、この二人が、かけあい漫才のようなしゃべくりをしながら事件を解決していくという筋立である。 収録は、「番犬騒動」、「洋書騒動」、「煙草騒動」、「分身騒動」の4篇。


「番犬騒動」は、ゼミの指導教授である守屋教授からイギリスへの団体旅行(といっても、途中、カレッジで授業を受けたりするプチ留学みたいなもの)に誘われた「和戸くん」が、費用稼ぎのバイトの話。バイトは守屋教授の紹介で、犬の散歩を毎日、朝晩にやるという簡単なものだが、なんとその報酬が破格の一日2万円。
犬は、大型犬のシェパードなのだが、特段に凶暴というわけでもなく、なぜ、そんな大金を、この程度のバイトに出すのか、という謎を「保住」が解決していくお話。事件自体は、何が起きると言うわけでもなく、和戸のバイト自体も無事終了して総計50万円を稼いでいるので、事件を解決というよりは、おきるかもしれなかった事件を解決、といったものなのだが、「保住」の推理にかかると、甲子園を目指す高校生や高校の死にもの狂いの暗闘がかくれていた(らしい)、なんともおおがかりな事件なのである。

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2006年4月16日

芦原すなお 「ミミズクとオリーブ」

ふんわりとしたミステリーである。 登場するのは、作家で(といっても余り売れてそうにないが)八王子の山の方に引っ込んでいる(八王子から20分ほどバスで行ったあたりらしい)「ぼく」とその「妻」。「ぼく」は讃岐の出身で、奥さんは、高校時代の恩師の娘さんという設定。「僕」のもとにどういうわけか持ち込まれてくる、というか、高校時代の友人で警視庁で刑事をしている「河田」が持ち込んでくる事件を、たちまちのうちに解決していくという設定である。


たちまち解決する、といっても、この奥さん、自分で犯行現場に赴いたりしたり、関係者を聞き込みしたり、といことをするわけではない。現場の捜査をするのは、本職の「河田」刑事であるし、奥さんの指令のまま詳しい調査をするのは、夫の「ぼく」である。奥さんは、話を最初聞いて、推理し、その証拠を固めるために河田刑事や「ぼく」をパシリとして使う、結構人使いの荒い「アームチェア・ディクティティブ」(安楽椅子探偵)である。感じとしては、クリスティの「マープル伯母さん」に近いのだが、作風というか、話の風情からすると、「割烹着」の似合う「和風マープル」である。


収録されているのは「ミミズクとオリーブ」「紅い珊瑚の耳飾り」「おとといのおとふ」「梅見月」「姫鏡台」「寿留女(するめ)」「ずずばな」の7篇。


「ミミズクとオリーブ」は「ぼく」とその奥さんの探偵デビュー。「ぼく」の家の庭にくるミミズクも初登場するし、「ぼく」の奥さんのどことなく武家っぽいというか、古式っぽい様子が窺われるデビュー作である。(設定では、奥さんも英文学の専攻ということになっているのだが、感じる雰囲気は国文学か国史だよな)
起きる事件は、「ぼく」の旧友で遣手の「飯室」の奥さんが逃げてしまった、なんとか行方を掴めないか、というもの。きっかけは度重なる浮気なのだが、その女にまともに対抗する飯室の奥さんもすごい、という印象。

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2006年4月15日

北村 薫 「六の宮の姫君」

「私」と「円紫師匠」のシリーズも、これで4作目。シリーズ開始当時は1年生だった「私」も大学の4年生となり、就職活動も開始しないといけないし、「卒論」も書かなきゃいけない時期である。


今回の事件は、その就職活動とその卒論がきっかけだ。いや、事件という言葉は適当ではないだろう。この「六の宮の姫君」では、何かが盗まれたり、誰かが殺されたり、といった事件らしい事件はおきない。

というのも、「私」がアルバイトをしている先の出版社で、文壇の長老(うーむ、古式ゆかしい言葉だ)が、まだ若い頃、芥川龍之助が自分の作品である「六の宮の姫君」を評して、「あれは玉突きだね・・・。いや、というよりはキャッチボールだ」と言っていた、という話をきかされ、その意味を探っていく「書誌ミステリー」あるいは「文学史ミステリー」というものである。


「六の宮の姫君」っていうのは、今昔物語に題材をとった話で、「ある貧乏貴族の娘が親が亡くなってからどんどん落魄していく、ようやく面倒をみてくれそうな男ができたのだが、その男も父親の地方の国司就任に伴って地方へいきなかなか帰って来ない。ようやく帰ってきたところが、姫の屋敷はすでに荒廃していて、都中を探すと、姫は乞食同然になっている。男と会うと姫は長年の無理がたたり、死んでしまうのだが、死ぬ間際に、どうしても声明が唱えられず、極楽と地獄の間を彷徨う亡者となってしまう」っていう話のようだ。


なんで、これがキャッチボールなんだ、というわけで、主人公の「私」は、芥川龍之助に関する書籍を調べまくる。途中、谷崎潤一郎や正宗白鳥、菊池寛やら、なんか学校の教科書にでてきたような記憶があるんだがなー、といった近代文学史を彩った人物がごちゃごちゃ出てきて、最後、「キャッチボール」の意味は、「時間を超えた情念の投げ合い」なのか、といった感じで、かなり賢っぽく、インテリっぽく展開していくのだが・・・。

すいません。どうも、こうした文学史っぽい話に疎い私としては、いまいち乗り切れませんでした。

古典や純文学といった方面の好きな方には「お薦め」と想像するミステリーです。
あの人が絞殺されたのだの、この人が毒殺されたのだの、血生臭いミステリー専門のかたは、ちょっと敬遠してしまうかなー。

2006年4月 5日

北村 薫 「冬のオペラ」

名探偵(自称なのかもしれないが)巫 弓彦 と、ワトソン役の巫が事務所を借りている不動産屋の社長の姪の「あゆちゃん」の活躍するミステリーである。北村 薫さんのミステリーは、こうしたホームズ役がホームズらしくないところと、ワトソン役が、そんじょそこらのお嬢さんであることが多いと思うのだが、それがまた魅力でもある。

収録は、「三角の水」「蘭と韋駄天」「冬のオペラ」の三作。

「三角の水」は、名探偵 巫 弓彦とあゆちゃんが出くわす初出の短篇である。
その場面で巫は、名探偵というものの本質というべきことを云う。

「名探偵はなるのではない。ある時に自分がそうであることに気附くのです。」

なんてことを。
うーん、名探偵がほとんど貧乏で、独りよがりなのがこれでわかりますよねー。「ライター」あるいは「小説家」という職業を記した名刺をつくれば、その時点からあなたも「ライター」ないしは「小説家」です、といったことを聞いたことがあるが、「名探偵」もおんなじやー、と思った次第でありました。

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2006年3月23日

加納 朋子 「ななつのこ」

19歳の女子短大生が「ななつのこ」という本を買って、えらく気に入り、作者にファンレターを書いたところなんと返事がきた。しかも、身の回りにおきた事件とはいえないまでも、ちょっと不思議な出来事を書いていたところ、なんと、その謎解きまでしてあるではないか・・・・・・、というわけで、女子短大生 入江駒子と本の作者の「佐伯綾乃」とのちょっと奇妙な文通を「ななつのこ」の話どおり七話にわたって綴ったミステリー。

収録されているのは、「スイカジュースの涙」「モヤイの鼠」「一枚の写真」「バス・ストップで」「一万二千年後のヴェガ」「白いタンポポ」「ななつのこ」の7話。

いずれの話でも、「ななつのこ」の話が挿入され、駒子の身のまわりでおこる奇妙な出来事の解決の糸口になっていたり、話の奥行きを深めたりしている。


まず「スイカジュースの涙」では、「はやて」(「ななつのこ」の主人公だ)の畑からスイカが盗まれる、しかも「はやて」が泊り込んで見張っていて、ちょっとうたたねをした瞬間に盗まれてしまう話が「話の中の話」。このスイカ泥棒の正体を、「あやめさん」が解く。子供を悪事の手先に使っちゃいけない、という謎解きは、ちょっと苦い。

駒子の事件は、近所の友達の家の犬が行方不明になった朝、道に血が点々と、かなりの範囲にわたってこぼれていた謎。後日、その血は酔っ払った近く学生が、ガラスで腕を切ったとして名乗り出て一件落着のように見えるのだが、実は、就職間近の青年が起こした事故が隠れていたというもの。


次の「モヤイの鼠」の話の中の話は、『金色鼠』。
「はやて」の村の寺には、昔、村を襲った鼠の大群を指揮した親玉鼠が固まった鼠の金色の置物があって、それが満月の夜になると動くというもの。その動く姿を見ようと寺に忍び込んだ「はやて」が怪我をする。ところが折角忍びこんだのに、「はやて」は「鼠」の姿を見なかったというのだが・・・というもの。

駒子の「不思議」は、駒子と友人は、有名抽象画家の展覧会で、誤って、絵の一部(絵の具の盛り上がったところ)を欠いてしまう。あわてて逃げたが、思い直して画廊に戻るが、何故か、絵の感じが変わっている。おまけにさっきまで、売却済みの札がかかっていたのにはずれているし、絵の具が欠けたところもなくなっている。心なしか、画廊の主人の機嫌も悪い、といった話。


抽象画は難しいよね、絵の上下も、善し悪しも。なにが描いてあるのか、説明されても解からないのがほとんどだものな。

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2006年3月13日

北村 薫 「秋の花」

「私」と「円紫師匠」のシリーズの「空飛ぶ馬」「夜の蝉」に続く三作目。 今回は長編である。 「空飛ぶ馬」が大学1年生、「夜の蝉」が大学2年生だから、「私」は大学3年生になっている。「正ちゃん」とはいつもながらの付き合いだが、「江美ちゃん」は学生結婚した相手のところに滞在中だ(「江美ちゃん」の旦那さんは大学の先輩で、卒業後すぐ九州に赴任になった)。

今回の事件は、私の身の回りではなく、卒業した高校でおきる、というかおきている。

「私」が幼い頃から知っている近所の女の子が、文化祭の準備をしている夜中、高校の屋上から墜落死したのだ。
そして、その女の子の親友(その娘とも「私」は幼い頃からの顔なじみという設定だ)も、その夜以来、抜け殻のようになって、学校も休みがちの状態。

その親友の女の子をそれとなくサポートしてくれるよう担任の教師に頼まれ、「私」は、その「事故」が親友の女の子の不安定な精神状態に大きな影響を及ぼしていることを感じながら、その女の子が何とか元気になったいくよう関わっていく。

しかし、その「事故」が「事故」ではなく、「事件」で、しかも、二人の女の子が非常に、ひどく仲が良くて、いつも同じ方向を見て歩いていたからこそ、起きたような「事故のような事件」であることが円紫師匠の手で明らかになるとき、二人の女の子の今までの、そして、これからの生涯が「ひどく哀しいもの」として私たちの前に現れるのである。

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北村 薫 「夜の蝉」

女子大学生の「私」と「円紫師匠」のお話の2冊目。 収録は、「朧夜の底」「六月の花嫁」「夜の蝉」の三作。

「朧夜の底」の舞台は3月。「私」の友人の高岡正子(「正ちゃん」だ)がバイトしている神田の大きな書店の国文学のコーナーで、7、8冊の本の向きが逆に並べてあるのにでくわす。
途中に、「私」が、ちょっといいな、と思う男子学生を正ちゃんの企みで、妙に変な名前で呼び続けていたといったエピソードや「私」の姉と正ちゃんと江美ちゃんが偶然出くわし、姉がとんでもない美人であることに驚愕されたりといったエピソードをはさむが、謎の中心は、その後二度も、その書店の国文のコーナーで1列、本の上下が逆さまにされていたり、箱と中身が入れ替えられている(おまけにスリップまでも)ところに出くわすことである。

話のリードは、落語の落ちの一つ「仕込みオチ」
枕の方で、オチの伏線になる説明をそれとなくしておいて、オチを訊いた途端「なるほど」と思わせるものである。この本屋のいたずらも、何か目的が秘められた「仕込み」が隠されているようだ。最後の方の円紫師匠の謎解きで、その「仕込み」は、どうも知識は自分の前にはタダで提供されるものだ、という傲慢な自尊心が隠されていることが明らかになるのである。

「花盗人」もやはり「泥棒」には違いない。

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2006年3月12日

北村 薫 「空飛ぶ馬」

落語家の円紫師匠と、ヒロインの女子大生の「私」が様々な事件に会い、解決していく過程の中で「私」が成長していく姿も見せていくシリーズの第1作。
この「空飛ぶ馬」でじゃ大学の1年生の頃、円紫師匠と出会うところから始まる。

収録は、「織部の霊」「砂糖合戦」「胡桃の中の小鳥」「赤頭巾」「空飛ぶ馬」の五篇。


まず、「織部の霊」

このシリーズの初作であろう。主人公と円紫(正式には"春桜亭円紫"という。)が出会う話。出会うといってもロマンチィックなものではない。「私」の恩師と一緒に大学の雑誌の「卒業生と語る」のシリーズ対談の聞き手になる、というもの。ありそうで、あまりない出会いなのだが、これをきっかけに円紫師匠をホームズ役にして「私」のまわりでおきる謎(それは大きな事件であったり、ささいな不思議であったりするのだが)をという解いていく、という連作シリーズが始まるのである。


このシリーズの特徴として、それぞれの話に、落語とか文学の話、歴史上の出来事などが、散りばめられ、それが話の味を深くするとともに、謎を解くヒントともなっているのだが、「織部の霊」では、「私」の恩師の子供の頃、叔父の家に泊まると怖い夢ー割腹して座っている烏帽子と素襖姿の男ーを見るが、その男が、叔父が秘蔵していて、子供の目にふれるはずのない巻物に描かれている古田織部正にそっくりであった。「織部正」の名すら知らない小学生が、なぜその姿を見、しかも腹を切った(切らされた)ことを知っていたのかという謎である。
恩師の叔父のことを語るゆったりとした語り口と、謎解きをする円紫師匠の穏やかな口調がのどやかで、ゆったりと謎解きを楽しませてくれる。

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2006年2月 5日

井沢元彦 「暗鬼」(新潮文庫)

歴史の謎を解き明かす、といった筋立てではないので、歴史ミステリーにいれていいのかどうか迷うのだが、いくばくかは「歴史」の「何故?」を描いたものとして歴史ミステリーに分類しておこう。


時代は、桶狭間の戦いの前後から関が原の合戦の前後まで。



ドラマとか映画や小説で、もっとも書かれることの多い戦国から安土桃山の天下統一の歴史の周辺事である。井沢元彦さんの戦国ミステリーには、織田信長が探偵役をつとめる「修道士の首」といった作品があるのだが、その周辺の作品と考えてもよいかもしれない。



収録は、「暗鬼」「光秀の密書」「楔」「賢者の復讐」「抜け穴」「ひとよがたり」「最後の罠」の7編。


いくつか簡単に、ネタバレにならないようにレビューすると


暗鬼

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2006年2月 4日

エリス・ピーターズ 「修道士の頭巾」(教養文庫)

修道士カドフェル・シリーズの第3作目。



年代的には1138年の冬。第2作は、この年の前半にイングランド王スティーブンと女帝モードとの争いがシュールズベリで行われていた時のことなので、かなり血なまぐさい話が多かったが、3作目は、そのしばらく後の話。

修道院長が、スティーブン王の要請でローマ教皇庁から、体制改革のため派遣された枢機卿に呼び出され、副修道院長が実権を握ろうとするなど、内戦の余波はあるが、まあまあ平穏な時期のが舞台となっている。






事件は、この修道院に財産の全て(金とか宝石とかじゃなくて荘園まるごとなのが豪快)を寄付して、食事とか飲み物、住宅の提供を受けて余生を過ごそうとしている金持ちの老人の殺人事件である。



ところが、この殺人の道具に、カドフェルが鎮痛の貼り薬として調合している薬が使われ、しかもその薬が、副修道院長が、お裾分けで、その金持ちに届けた料理に仕込まれていた、といったところから修道院あげての捜査となり、カドフェルが捜査に関わらざるをえなくなる。

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2006年1月29日

エリス・ピーターズ 「死体が多すぎる」(教養文庫)

修道士カドフェル・シリーズの2作目である。

ハヤカワ・ミステリマガジンで、カドフェルものは掌編的なものは読んだことはあるのだが、きちんとまとまった中編は初めてだ。リサイクルショップで、とびとびに買い込んだので順々にレビューしよう。


まずは、この「死体が多すぎる」である。
時は1138年。舞台はイギリスのシュールズベリ。

といってもシュールズベリってのはどこだ・・・とググッてみると、「中世の都市」ってページがある。このページによると、イギリスの本島の真ん中より下の辺りかな、ウェールズの近くで、11世紀のノルマン・コンクエストの時に防衛の要としてつくられたとある。

ノルマン・コンクエストってのは何だ、と今度は、この本の解説を見ると、1066年にノルマンディー公ウィリアム、イングランドを征服して「ノルマン王朝」ってのが始めたことのよう。 要はフランス人にイギリス人が負けちゃって王様になられてしまった、っていうことか。とはいっても、フランスといった国家意識が芽生えている時代ではないから、ノルマンの王様がイングランドも支配下にいれてしまったぐらいの意識だろう。

このウィリアム1世の没後、三男のウィリアム三世、四男のヘンリー一世が後を継いだが、このヘンリー一世が跡継ぎに娘のモード(この女性はフランス北西部のアンジューの伯爵と結婚していたらしい)を指名するが、旦那の支配地にいる間に、イングランドの貴族がヘンリー一世の妹の息子のスティーブンを王にすることに同意してしまったから、モードがおさまらない。王位を返せって訳で十数年、内戦が続く、といったあたりが、この小説の時代風景。

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2005年11月20日

中津文彦 「消えた義経」(PHP文庫)

源 義経は平泉で死なず、北へ向かったという北行伝説を推理する歴史ミステリー。

プロローグは、津軽の十三湊(とさみなと)で鎌倉の諜者が、北の大陸から大量に渡ってくる船に驚愕している。噂では御曹司(源 義経)が靺鞨(まっかつ)の騎馬軍団をつれてくる船だということだが、果たして・・・という

というところから、小説は、平家滅亡後、頼朝と義経の仲が悪化し、義経が都から姿を消した時点からスタートする。話は、鎌倉幕府から義経の捜索を命ぜられた和田義盛配下の武士の目から語られる。

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2005年10月11日

ジェフリー・ディーヴァー 「生まれついての悪人」(ハヤカワミステリマガジン 2005.4月号)

最近、積読状態だったSFマガジンとミステリマガジンを集中的に読んでいるので、その中から。ミステリマガジンの2005.4月号は「悪女特集」

出だしは、年老いた母親が、出て行った娘と過ごした頃を思い起こすことから始まる。小さな頃は、無邪気だった娘が、だんだん親の言うことを聞かなくなっていくこと。悪い仲間と付き合い始め、外泊も多くなってきたこと、などが追想される。どうも、この娘、母親だけでなく父親にも反発していたらしい。
母親は、裁縫が得意で、父親は親譲りの倉庫業を営んでいるらしい。
娘はティーンエージャーの頃、万引きでつかまったことも。

その後、現在へと移り、娘が母親のところへ会いにくる場面へ。
母親は、宝石店での銃撃戦にまきこまれて腕に古傷を負っているらしい。
母親が今住んでいる小さな(しかし調度品は贅沢な)家へ娘が会いにくることに。

娘の不行跡の始末をつけようと、母親は護身用の銃を手にするが、撃てない。
そして二人が庭に出たとき、警察が到着するが・・・。

といったところで、娘が実は刑事になっていて、実は母親と父親は、強盗と盗品売買を手広くやっている、筋金入りの悪党であることが娘の口から喋られる。娘の手で母親は手錠をかけられるが、母親は、ろくでもない娘だと。

万引きは、親の盗んだものを返しにいってつかまったもの、悪い友達は、盗みに手を染めない優等生たち、といったことらしい。

最後まで読めば、なんとはない落ちなのかもしれないが、娘を持ってい父親としては、だまされてしまう短編。