茂七親分の捕物帳。たぶん、これが茂七親分はデビューと思う。江戸の庶民の暮らしを題材にした推理短編。レギュラー陣は意外にシンプル。茂七親分と女房、子分。そして素性の知れない稲荷寿司の屋台の親父(武士あがりらしいが)
江戸の四季折々の風情を漂わせながら、一篇一篇が語られる。推理のヒントは、この稲荷寿司売りの親父のところで酒を飲んでおしゃべりをしている時に茂七親分が思いつくこと多い。稲荷寿司売りの親父はちょっとしたワトスンないし、名探偵コナンのらん役。
話の合間に出てくる稲荷寿司の屋台の親父のところの料理が旨そう。
収録は「お勢殺し」「白魚の目」「鰹千両」「太郎柿次郎柿」「凍る月」「遺恨の桜」の6篇。
「お勢殺し」
素っ裸で川に放り込まれていた女(担ぎの醤油売りのお勢)の下手人探し。優男に女が結婚を夢見てすがりついて、結局殺されちゃった・・・てことなのだが、ネタばれするのは、優男は力仕事が苦手、ということ。
茂七親分もだが、稲荷寿司売りの親父と、その界隈の顔役 梶屋との関係など、次の話への謎を残しながらスタートする。
ミステリーの中身もだが、蕪汁とすいとん汁のあたりを読むだけでも楽しい。
蕪汁は旬の蕪をつかった赤だしの味噌汁。すいとん汁は、葛粉を練ってこさえた団子をうどん汁で食べるもの。
推理のヒントは、中身がすいとんの蕪汁。
「白魚の目」
ストリートチルドレンの5人の子どもの毒殺事件。子供を持つ親としては、5人の子供たちがばらばらと転がっている光景を想像するのは、あまり好きじゃない。
キーワードとなるのは、白魚の黒い目と石見銀山。白魚も、じっと見つめられていると思うと確かに気になるね。踊り食いはちょっと躊躇してしまうかも。
しかし、こうした殺人ができるお嬢さんは、きっと何故自分が咎めらるのか最後までわからないだろうね。殺された子供たちも、生きていくためには悪がきに盗みやかっぱらいは日常茶飯だろうから、けっして無邪気一方ともいえないだろうし、かえって臭いものを取り除いたぐらいの気持ちなんだろう。
こういうのが増えては欲しくないなー。やはり、白魚の黒い目に、少しはぎょっとする感性を子供たちには持たせたいなー。
今回の料理は、白魚蒲鉾。白魚を同じだけの水につけ、一昼夜おくと水が濁る。その水を煮詰めて、固まってきたものに葛あんをかけ、山葵を少々添えたもの。
「鰹千両」
生き別れというか、捨て子をしたわが子に援助をしようとして、育ての親と周辺はあたふたする話。
キーワードは初鰹と双子の卵。ストーリーも初鰹を知り合いから届けられること、知り合いの魚屋が大店から鰹を千両で買いたいといわれるところから始まる。結局は、我が子と千両のどちらをとるかってことになるのだが、展開はちょっと単純かな。
今回の料理は、題名どおり、鰹のタタキ
「太郎柿次郎柿」
ご祈祷坊主(坊さんでなく、小さな子供の意味での「坊主」)の日道の初登場。十にもなっていない子供の八卦身である。ただ、今回はちょっとした脇役としてお目見え。話の筋とは直接関係ない。
話の本筋は、田舎から金の無心にでてきた兄が、大店で働いていて、別の大店の婿に所望されている弟(相手の娘も惚れている、なんとも羨ましいイケメン野郎)を殺しちまう話。
兄の借金を断る席に、手土産で高そうな干菓子をもってきたのが原因っぽいのだが、それ以外にも、田舎にいた時の二人の関係(兄の方が断然偉かったようだ)や弟がきっと見せたに違いない田舎臭いままの兄への隠しようのない侮蔑感とか、いろんなものの結果なんだろうなー。真相は兄が飛び降り自殺してしまうので藪の中なのだが、生きていても、きちっとした理由は兄も説明できなかったんじゃないだろうか。
今回の料理は、柿羊羹。
「凍る月」
下酒問屋河内屋の女中の逐電とその捜索。そこの若主人(松太郎)は店の手代だったのを見込まれて婿入りしたばかり。
逐電した女中 さとは、若主人が婿になると決まっていない頃、互いに好きあっていたらしい。その数日前に盗まれた新巻鮭(といっても一匹だが)を盗んだ、といって逐電したという、つまらない理由。本当の訳は何か、生きているのか・・・、といった捜索を開始しているうちに、女中発見。なんてことはない、主人らしくしようと精一杯背伸びするが、それにも関わらずセコサを露にしてしまう松太郎に愛想をつかしてのことらしい。
でも、突然の昇進で周囲に侮られないように背伸びをするが、背がついていかない松太郎の姿は、共感できるねー。勤め人で、よほどドロップアウトしてるか自信がある人を除いて出世レースの中ではよく見る風景だし、自分もやってそうだもんなー。(若い娘の冷静な目から見ると格好悪いかもしれないけどなー)
今回の料理は小田巻蒸し。茶碗蒸しの中にうどんが入っているものらしい。
「遺恨の桜」
祈祷坊主の日道が、暴漢に襲われ大怪我をする。日道(本名は長助)の親のやり口が気にいらない親分は、日道を襲った暴漢を捕らえることを口実にあれこれに日道のまわりを調べる。日道の託宣する多くは、父親(もとは岡っ引)の下調べらしいと見当をつける話があるが、これは余談の部類。本当のヒントは日道がぐるぐる巻きにされている湿布の臭い。
事件の方は、味噌問屋伊勢屋の下男の清一の失踪の捜索。
深川のあたりの大地主の家を訪ねていって行方知れずになっていることをつきとめ、清一がその地主の家を訪ねて、どうも袋叩きにあって閉じ込められていることを推量し、乗り込むが・・・・
結局は清一は無事。娘の婚礼の差しさわりになってはと、地主が清一を閉じ込めていたもの。日道を襲わせたのも、こいつらしく、清一の見舞金は、親分が搦め手からふんだくる。
今回は、料理といっても鰆の焼き物や桜餅はでてくるのだが、さして印象深いものはなし。
稲荷寿司売りの親父は、ひょっとして火附盗賊改めあがりでは、茂七が推測するところで話は終わる。
続編は出ていないのだろうか。稲荷寿司売りと梶屋の関係が気になっているのだが・・・

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