2006年3月アーカイブ

19歳の女子短大生が「ななつのこ」という本を買って、えらく気に入り、作者にファンレターを書いたところなんと返事がきた。しかも、身の回りにおきた事件とはいえないまでも、ちょっと不思議な出来事を書いていたところ、なんと、その謎解きまでしてあるではないか・・・・・・、というわけで、女子短大生 入江駒子と本の作者の「佐伯綾乃」とのちょっと奇妙な文通を「ななつのこ」の話どおり七話にわたって綴ったミステリー。

収録されているのは、「スイカジュースの涙」「モヤイの鼠」「一枚の写真」「バス・ストップで」「一万二千年後のヴェガ」「白いタンポポ」「ななつのこ」の7話。

いずれの話でも、「ななつのこ」の話が挿入され、駒子の身のまわりでおこる奇妙な出来事の解決の糸口になっていたり、話の奥行きを深めたりしている。


まず「スイカジュースの涙」では、「はやて」(「ななつのこ」の主人公だ)の畑からスイカが盗まれる、しかも「はやて」が泊り込んで見張っていて、ちょっとうたたねをした瞬間に盗まれてしまう話が「話の中の話」。このスイカ泥棒の正体を、「あやめさん」が解く。子供を悪事の手先に使っちゃいけない、という謎解きは、ちょっと苦い。

駒子の事件は、近所の友達の家の犬が行方不明になった朝、道に血が点々と、かなりの範囲にわたってこぼれていた謎。後日、その血は酔っ払った近く学生が、ガラスで腕を切ったとして名乗り出て一件落着のように見えるのだが、実は、就職間近の青年が起こした事故が隠れていたというもの。


次の「モヤイの鼠」の話の中の話は、『金色鼠』。
「はやて」の村の寺には、昔、村を襲った鼠の大群を指揮した親玉鼠が固まった鼠の金色の置物があって、それが満月の夜になると動くというもの。その動く姿を見ようと寺に忍び込んだ「はやて」が怪我をする。ところが折角忍びこんだのに、「はやて」は「鼠」の姿を見なかったというのだが・・・というもの。

駒子の「不思議」は、駒子と友人は、有名抽象画家の展覧会で、誤って、絵の一部(絵の具の盛り上がったところ)を欠いてしまう。あわてて逃げたが、思い直して画廊に戻るが、何故か、絵の感じが変わっている。おまけにさっきまで、売却済みの札がかかっていたのにはずれているし、絵の具が欠けたところもなくなっている。心なしか、画廊の主人の機嫌も悪い、といった話。


抽象画は難しいよね、絵の上下も、善し悪しも。なにが描いてあるのか、説明されても解からないのがほとんどだものな。


まえがきを読むと、メロドラマの「頭の禿げた准男爵」と同じくらい(「頭の禿げた准男爵」っていうのが、どうもピンとこなくて困るのだが)、ミステリーの「書斎の死体」は使い古されている文句らしいが、その「使い古された」テーマで敢えて書こうというのが、クリスティらしいといえば、クリスティらしい。

事件の舞台は、ミス・マープルの住むセント・メアリ・ミード村。しかもマープルの友人のパントリー夫人の夫パントリー大佐の書斎に若い女性の死体が転がっていたというもの。

ミード村の習慣、朝9時から9時半までに村の近所の人達へ電話で朝の挨拶をかける時間になっていて、その日の計画や招待とかの時間も連絡することになっているとか、夜の9時半以降に電話をかけることは、失礼にあたると考えられている、とかいった田舎らしいエピソードも語られる。

この死んでいた女性は、厚化粧で、安っぽい背の開いたイヴニングドレスを着ているといった、ちょっとスキャンダラスな死体。近くのホテルのダンサーをしているという設定だから無理もないのだが、こうした女性に対しては、クリスティはかなり厳しいのが常だから、かなり辛辣である。まあ、このあたりの死体の確認とか、この女の様子とかが、最後の謎解きに向けて、いろんな仕掛けが施されているのだが、ちょっと気がつかなかった。

北村 薫 「秋の花」

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「私」と「円紫師匠」のシリーズの「空飛ぶ馬」「夜の蝉」に続く三作目。 今回は長編である。 「空飛ぶ馬」が大学1年生、「夜の蝉」が大学2年生だから、「私」は大学3年生になっている。「正ちゃん」とはいつもながらの付き合いだが、「江美ちゃん」は学生結婚した相手のところに滞在中だ(「江美ちゃん」の旦那さんは大学の先輩で、卒業後すぐ九州に赴任になった)。

今回の事件は、私の身の回りではなく、卒業した高校でおきる、というかおきている。

「私」が幼い頃から知っている近所の女の子が、文化祭の準備をしている夜中、高校の屋上から墜落死したのだ。
そして、その女の子の親友(その娘とも「私」は幼い頃からの顔なじみという設定だ)も、その夜以来、抜け殻のようになって、学校も休みがちの状態。

その親友の女の子をそれとなくサポートしてくれるよう担任の教師に頼まれ、「私」は、その「事故」が親友の女の子の不安定な精神状態に大きな影響を及ぼしていることを感じながら、その女の子が何とか元気になったいくよう関わっていく。

しかし、その「事故」が「事故」ではなく、「事件」で、しかも、二人の女の子が非常に、ひどく仲が良くて、いつも同じ方向を見て歩いていたからこそ、起きたような「事故のような事件」であることが円紫師匠の手で明らかになるとき、二人の女の子の今までの、そして、これからの生涯が「ひどく哀しいもの」として私たちの前に現れるのである。

北村 薫 「夜の蝉」

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女子大学生の「私」と「円紫師匠」のお話の2冊目。 収録は、「朧夜の底」「六月の花嫁」「夜の蝉」の三作。

「朧夜の底」の舞台は3月。「私」の友人の高岡正子(「正ちゃん」だ)がバイトしている神田の大きな書店の国文学のコーナーで、7、8冊の本の向きが逆に並べてあるのにでくわす。
途中に、「私」が、ちょっといいな、と思う男子学生を正ちゃんの企みで、妙に変な名前で呼び続けていたといったエピソードや「私」の姉と正ちゃんと江美ちゃんが偶然出くわし、姉がとんでもない美人であることに驚愕されたりといったエピソードをはさむが、謎の中心は、その後二度も、その書店の国文のコーナーで1列、本の上下が逆さまにされていたり、箱と中身が入れ替えられている(おまけにスリップまでも)ところに出くわすことである。

話のリードは、落語の落ちの一つ「仕込みオチ」
枕の方で、オチの伏線になる説明をそれとなくしておいて、オチを訊いた途端「なるほど」と思わせるものである。この本屋のいたずらも、何か目的が秘められた「仕込み」が隠されているようだ。最後の方の円紫師匠の謎解きで、その「仕込み」は、どうも知識は自分の前にはタダで提供されるものだ、という傲慢な自尊心が隠されていることが明らかになるのである。

「花盗人」もやはり「泥棒」には違いない。


ポアロもの4篇、マープルもの1篇の短編集。
収録は
ポアロものが
「クリスマス・プディングの冒険」「スペイン櫃の秘密」「負け犬」「二十四羽の黒つぐみ」
の4篇

マープルものが
「グリーンショウ氏の阿房宮」
の1篇である。

「クリスマス・プディングの冒険」は、東洋の国の王子のもとから持ち逃げされたルビーのあとをおって、ポアロがイギリスの田舎のレイシイ一家のもとでクリスマスを過ごしながら、ルビー泥棒からルビーを取り戻す話。
レイシイ一家には、レイシイ夫妻のほか、セアラという一人娘。セアラの恋人になっているリーウォートリィという男と彼の妹という女性(この女性は、手術後の具合が悪いということでポアロの前に最後にならないと現れない)
ダイアナ・ミドルトンというキツそうな女性、そして孫息子のコリンとその友人のマイケル。いとこのブリジッド(この娘は黒髪だ。金髪でないということは、クリスティが好意をもっている証拠だネ)が泊まっていて、この三人の子供たちが、ポアロを一杯ひっかけようとして殺人事件をでっちあげるといったハプニングをうまく利用して、ルビー泥棒を追っ払うストーリーである。

話は、クリスティらしく手馴れているが、この話の見せ所というか読ませ所の一つは、「イギリスの昔ながらのクリスマス」だろう。
カキのスープ、詰め物をした七面鳥料理、それから指輪だとか独身者用のボタン(これは何だかよくわからないが)をいれたプラム・プディングを皆で食べるシーン とか ヤドリギの下に立っている女性にはキスしていいという風習だとか、イギリスのクリスマス(それも昔風の)の情景は楽しい。

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