収録されているのは、「スイカジュースの涙」「モヤイの鼠」「一枚の写真」「バス・ストップで」「一万二千年後のヴェガ」「白いタンポポ」「ななつのこ」の7話。
いずれの話でも、「ななつのこ」の話が挿入され、駒子の身のまわりでおこる奇妙な出来事の解決の糸口になっていたり、話の奥行きを深めたりしている。
まず「スイカジュースの涙」では、「はやて」(「ななつのこ」の主人公だ)の畑からスイカが盗まれる、しかも「はやて」が泊り込んで見張っていて、ちょっとうたたねをした瞬間に盗まれてしまう話が「話の中の話」。このスイカ泥棒の正体を、「あやめさん」が解く。子供を悪事の手先に使っちゃいけない、という謎解きは、ちょっと苦い。
駒子の事件は、近所の友達の家の犬が行方不明になった朝、道に血が点々と、かなりの範囲にわたってこぼれていた謎。後日、その血は酔っ払った近く学生が、ガラスで腕を切ったとして名乗り出て一件落着のように見えるのだが、実は、就職間近の青年が起こした事故が隠れていたというもの。
次の「モヤイの鼠」の話の中の話は、『金色鼠』。
「はやて」の村の寺には、昔、村を襲った鼠の大群を指揮した親玉鼠が固まった鼠の金色の置物があって、それが満月の夜になると動くというもの。その動く姿を見ようと寺に忍び込んだ「はやて」が怪我をする。ところが折角忍びこんだのに、「はやて」は「鼠」の姿を見なかったというのだが・・・というもの。
駒子の「不思議」は、駒子と友人は、有名抽象画家の展覧会で、誤って、絵の一部(絵の具の盛り上がったところ)を欠いてしまう。あわてて逃げたが、思い直して画廊に戻るが、何故か、絵の感じが変わっている。おまけにさっきまで、売却済みの札がかかっていたのにはずれているし、絵の具が欠けたところもなくなっている。心なしか、画廊の主人の機嫌も悪い、といった話。
抽象画は難しいよね、絵の上下も、善し悪しも。なにが描いてあるのか、説明されても解からないのがほとんどだものな。
3話目は「一枚の写真」。
話の中の話は、「はやて」と友人たちの絵の具、それも青色だけがなくなる話。おばあさんに空を見せたいという友人の優しい心根の話。
駒子の「不思議」は、アルバムからいつの間にかなくなっていた幼い頃の写真一枚が、小学校の頃転校してしまった友人のもとから突然送られてくる話。 その友人は、火事で家を焼かれた経験があるらしく、幼い頃の写真とか思いでの品をすべて失ってしまっていた。そして、若くして結婚して、もう子供ができるらしい。なぜ、今ごろ、写真を送り返してくるか、そして何故、親しかった駒子から写真を黙って盗んだのか、という謎。
今までの人生を振り返らせてくれる写真とか、もろもろの思い出にまみれた「がらくた」を一挙に失うというのは、今までの暮らしを一挙に失うようで淋しいよな、と写真を盗んだ女の子の気持ちを思ってシンミリしてしまう。
4話目の「バス・ストップで」は、駒子が通っている自動車教習所の近くのアメリカ軍の基地の近くでのお話。
老婦人が、基地のフェンスのツツジの藪の中にうずくまって何かをほじくり返したりしているような場面。しかも何度となく、孫らしい小さな女の子と一緒の時もある、といった場面にでくわすというもの。話の後のほうで、そのつつじの藪の中、フェンスの向こうい色とりどりの花が咲き誇っているのを発見し、それが老婦人の仕業であろうことは気づくのだが、その理由は、「ななつのこ」の作者によって解き明かされる。
私などの戦後生まれは、第2次世界大戦、太平洋戦争も、遠い昔のように思ってしまうのだが、それを実経験として持っている人が生きている間は、まだ風化しない歴史なのだろう。
「はやて」の話は、「ミズイロアゲハ」という世にも稀な蝶を友人がみつけたことから皆が昆虫採集が熱狂するが、そアゲハは一向に二羽目がみつからない。それもそのはず、実は蝶ではなくて・・・という話。
あと、この話で、駒子は、この後の話で大事な役回りを果たす男性に出会うところが、今後の展開を期待させるようで楽しい。
5話目は、「一万二千年後のヴェガ」
「8000年後は白鳥座のデネヴ、12000年後には、琴座のヴェガが北極星の役回りを果たすらしい。」物語は、駒子がデパートの屋上にあるらしいプラネタリウムに入っている場面から始まる。
その屋上には、恐竜のプロントサウルスの巨大なバルーンもあるところだ。 この「プロントサウルス」が一夜にして、遠くの保育園の庭に移動したのが、今回の不思議。このバルーンは普段は、コンクリートの重しで固定されているし、大きなものだから、空気を抜いても嵩張って、こっそり運べるものではない。どうやって、犯人はこれを移動させたのか、というのが謎。
まあ、アドバルーンといえば、本来的に空に飛ぶもの、そして、いつかは地上に帰るものということか。この話でも、前話で出会った男性と偶然再会している。名前は「瀬尾」さんといって、ちょっとイケメンのような設定。
「はやて」の話は竹の花が咲き始めた竹やぶを舞台にした、年とったカップルの忍びあい。なんと意思を伝えるアイテムは「和歌」だ。
6話目は、「白いタンポポ」
学校のサマースクールに、なんの拍子か参加した駒子が、ちょっと「ひきこもり」気味、というか、気が優しくて、つい引っ込んでしまい勝ちな「真雪」ちゃんと出会い、一日を一緒にに過ごし、心のつながりを築く話。 「ひきこもり」と担任の教師に思われるきっかけも「白いタンポポ」であるし、駒子が真雪ちゃんと心をつながらせるのも「白いタンポポ」。でも綿毛でなく、花が白い「タンポポ」が本当にあるとは思わなかった。
キャンプの翌日の朝、真雪ちゃんが駒子の姿を探し求める様子と、それを見て、駒子が自分が親戚の家に数日預けられていた時に祖母の姿を捜し求めたことを思い出すところは、私の子供たちも同じような事をしたよな、とおもわず微笑んだ。
「はやて」の話は、はやてのお父さんの昔話。お父さんが大切にしていたおもちゃのピストルを友人に、宝探しごっこの遊びの中で隠されてしまい、とうとう見つからなくなってしまう。そのピストルがなくなってから、庭のアジサイが青くなったという話をきいて、「あやめさん」がピストルなら庭に埋めてあると言い、本当に見つかる話。
このアジサイが青くなる、というところが、駒子の話の最後の方で食器がいくつか紛失するという騒ぎのトリガーになる。
最後の「ななつのこ」は、今まで見事な謎解きをしてくれていた本の作者の正体、というかファンレターの返事を出していた人の正体が明らかになる。
「はやて」の話は、お寺の猫が子猫を生んで、その子猫を「はやて」が貰い受けるが、翌朝いなくなってしまう。しかも、はやてのところだけでなく、その猫の生んだ子猫全てがだ。一体誰が、どこへ連れていったのか、といった話。猫といえども、子供は子供だ、というのがネタ。
駒子の話は、例のプラネタリウムが舞台。そこで、サマーキャンプで知り合った「真雪」ちゃんが行方不明になってしまう。真雪ちゃんは、「ななつのこ」のイラストを描いている麻生さんの娘で、どうも親権争いが絡んでいるらしい。おまけに麻生さんと、その元旦那さんはお互いに未練をもっているようで・・・、といった人間模様が回りをくるむ。
ネタバレ的にいうと、プラネタリウムを上映中にでるとどうなるか、と、子供は中の良い親を求めている事が多いよね、ということのよう。
あと、「ななつのこ」のストーリーの出来上がるまでの裏話や、ファンレターの返事が書かれた理由も最後の方ではっきりしてきて、駒子と瀬尾さんとの今後も期待させる終わり方である。(瀬尾さんってのは、実はかなりのシスコンらしい)
読み味は、軽く、しっとりとして、余韻もまた良し。北村 薫さんの「空飛ぶ馬」シリーズの好きな人なら、きっと気に入ること請け合いの一冊である。

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