2006年4月アーカイブ

芦原すなお 「嫁洗い池」

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「ミミズクとふくろう」に続く、八王子に住む、売れない作家の「ぼく」と「妻」の、ふんわりとしたミステリーである。話の都度、警察署を異動している、同級生の「河田警部」もすこぶる元気である。 収録は、「娘たち」「まだらの猫」「九寸五分」「ホームカミング」「シンデレラの花」「嫁洗い池」の6篇。

前作では、河田警部が持ち込んでくる事件ばかりでなく、「ぼく」が出くわす事件もあったのだが、今回は河田警部の持ち込み事件がほとんど。おまけに、この警部、「ぼく」の「妻」に事件を依頼する時には、持ち込んでくる(もちろん、料理してもらった後は、警部も盛大に食べるのだが)郷土の食材も、このミステリーを読むときの別の楽しみのひとつ。


一つ目の「娘たち」は「河田警部」の同僚の「岩部氏」の家出してしまった娘さんの捜索。娘さんというのは、まじめな女子大生で、成人式に父親の買った晴れ着を着る約束をしていたのに、成人式前に家出をしてしまった、という設定。
ネタバレは、「お父さん、あんまり厳しくすると、娘さんがグレちゃいますよ」といったところなのだが、高校生の娘をもつ父親の私としては他人亊ではない。

で、この娘さんを探しに六本木のクラブなぞを訪ねるのだが、「この町はすかん」といった河田警部の感想や、僕の「いい身なりの若い娘もずいぶん多い。華やかなものだ。日本にはやっぱり金があり余っているようだ。」という表現がある。ほかのところに「アトランタ五輪」というキーワードが出てくるから、1996年あたり、バブルがはじけて、「失われた十年」のまっただ中のあたりの東京、六本木を思い浮かべると「なるほどね」と、いくつかの徒花を思い出す。


二つ目の「まだらの猫」は、密室殺人事件。ある金持が離れで殺される。扉には、密室だから当然鍵がかかっていて被害者の首には毒を塗った吹き矢が刺さっていた、という事件。ネタバレは、吹き矢は殺人の道具ではない、というところや、やたら元気で脂ぎっていた被害者に苛められてきた人間の逆襲といったところ。

この篇で、高松の郷土料理らしい、「アラメ」と「ヒャッカ」というものが登場。前者は海草、後者は葉野菜らしいのだが、現物にお目にかかったことがないので、味の論評はできない。文中の表現を信用すれば、「それぞれを熱いご飯に載せて食べると、もう、あんた。」というぐらいらしい。

野球をまったく知らないのに、夫の死に伴って「東海レインボーズ」のオーナーとなった虹森多佳子。彼女は、いつも優雅なドレスに身を包み、球場に訪れるのだが、なぜか、野球場周辺で奇妙な事件に遭遇してしまう。

おっとりした口調で、彼女が謎解きをするのとあわせて、万年最下位チームの「東海レインボーズ」が、どういう風のふきまわしか優勝争いに食い込んで行く、というミステリーとスポーツドラマをあわせたような構成のミステリー。

収録は

「幻の虹 ー東海レインボーズ対京華チャレンジャーズ 1回戦」
「見えない虹 ー東海レインボーズ対札幌ポラベラーズ 4回戦」
「破れた虹 ー東海レインボーズ対北九州スキップジャック 13回戦」
「騒々しい虹 ー東海レインボーズ対中央フリークス 18回戦」
「ダイヤモンドにかかる虹 ー東海レインボーズ対難波マシンガンズ 26回戦」

と、シーズンの最初から、優勝決定の試合までの、野球の1シーズン。

第1話の「幻の虹」は、虹森多佳子オーナーの初登場作。彼女が野球観戦をしている近くで遠慮容赦ない野次を飛ばしている関西弁の3人組(話の最後の方で関西の人間ではなく、関西の野球の応援の様子に惹かれて、見様見まねで関西弁を使っている仙台人であることがわかるのだが)。彼らの近くで、野球をみるでもなくスコアボードを気にしていた陰気な男が、突然、鞄にいれた一万円札を撒きはじめる。その男のいうには、息子を誘拐した犯人から、この野球場でお金を撒くよう脅迫されたというのだが・・・、という事件。

途中でおきる殺人事件と絡んで、アリバイづくりもうまくやらないと、アリバイづくりにならなくなる、とりわけ金が撒かれると、我を忘れる人間はでてくるからねー、というあたりがネタバレか。


第2話の「見えない虹」は 野球を通じて知り合ったペンフレンドが、始めて会ってデートをする話。しかし、女性の方は容貌に自信なく、つい美人の妹の写真を自分だと偽って、男へ送ってしまっていた。彼女は、妹が急病になり、申し訳ないので謝りにきた姉、という設定で、彼氏と大ファンの東海レインボーズの試合を見ることになる。ところが、球場周辺で、高校の教師(かなりねちっこく生徒をいじめる教師だったらしい)が、自宅でヘッドフォンをつけたまま撲殺されるという事件がおきていて、彼氏が、その高校の卒業生、おまけに、その教師にいじめられて高校を退学したということがわかり、殺人犯人と疑われることに・・・、といったもの。

ちょっと犯人に疑われることになるきっかけが唐突かなー、と思わないではないのだが、このカップルの将来に免じて許すとしよう。ネタバレは、生徒をいじめにひっかける道具にヘッドフォンカセットやラジオを使っていた教師が、ヘッドフォンを好んでつけるか、といったあたり。

見事な「しゃべくりミステリー」、というか「漫才的ミステリー」というか、あっとおどろくミステリーの叙述の新方式を披露した「しゃべくり探偵」の続編である。


収録は「騒々しい幽霊」「奇妙なロック歌手」「海の誘い」「高原の輝き」「注文の多い理髪店」「戸惑う婚約者」「怪しいアルバイト」の7篇。

ところが、「しゃべくり探偵」で見せた「保住」と「和戸くん」のコンビのしゃべくりミステリーは最
初の2篇までで、あとは、「保住」は、第三者のように事件の当事者たちの周辺にぼやっと現れてきては事件を解決していく(「注文の多い理髪店」に至っては店主の話の中にしか登場してこない)という、存在感が、大阪のたこ焼のように、どーんとあった前回とくらべ、なんとなく軽やかである。とはいっても、安楽椅子探偵は健在。事件の関係者からの聞き取りで、事件を推理してくという構図は変わらない。


第1話の「騒々しい幽霊」は「和戸くん」の妹が結婚することになり、新居を祖母の住んでいた家に構えたのだが、そこに幽霊、というかポルターガイストがでる。
人気がないところで電灯がついたり、茶碗や皿が割れている。しかも、その茶碗や皿は、家に置いてあるものとは違うものばかり、というもの。ネタは、最近の「お宝ブーム」に象徴される古びた皿や茶碗が原因で、伏線の張り方が見事なのだが、それにもまして、和戸の妹の顔をネタにした、関西の漫才さながらの、かけあいが楽しめる。


第2話は、「奇妙なロック歌手」。
最近売りだしそうなアマチュア・ロック・バンドを結成している友人の家が盗みに入られる。それも、送った覚えのない懸賞の温泉旅行に当選して旅行している最中のこと。
どうやら、その懸賞自体が、仕組まれたものらしい感じがするのだが、盗まれたものは旅行料金をちょっと上回るぐらいの現金とエレキギター。エレキギターは近くのごみ捨て場に捨てられているのが発見されるから、どうも仕掛けのわりに儲からなかった窃盗事件。しかもエレキギターは、捨てられていたのをチューニングしたら、音がよくなったらしいから、盗難にあったほうも、あながち損ばかりではない。といった妙な事件の謎。

ネタバレは、若気の至りを、後で責任をとらないといけなくなるとは、しんどいよねー、といったあたり。ヴィンテージギターがどんなものか、よくわかっていないので、つまらない寸評はやめよう。

全編、関西弁の「しゃべくり」という、なんとも大阪っぽいミステリーである。


配役は、ホームズ役が「保住」、ワトソン役が「和戸くん」で、保住がツッコミ、和戸がボケという妙なとりあわせで、この二人が、かけあい漫才のようなしゃべくりをしながら事件を解決していくという筋立である。 収録は、「番犬騒動」、「洋書騒動」、「煙草騒動」、「分身騒動」の4篇。


「番犬騒動」は、ゼミの指導教授である守屋教授からイギリスへの団体旅行(といっても、途中、カレッジで授業を受けたりするプチ留学みたいなもの)に誘われた「和戸くん」が、費用稼ぎのバイトの話。バイトは守屋教授の紹介で、犬の散歩を毎日、朝晩にやるという簡単なものだが、なんとその報酬が破格の一日2万円。
犬は、大型犬のシェパードなのだが、特段に凶暴というわけでもなく、なぜ、そんな大金を、この程度のバイトに出すのか、という謎を「保住」が解決していくお話。事件自体は、何が起きると言うわけでもなく、和戸のバイト自体も無事終了して総計50万円を稼いでいるので、事件を解決というよりは、おきるかもしれなかった事件を解決、といったものなのだが、「保住」の推理にかかると、甲子園を目指す高校生や高校の死にもの狂いの暗闘がかくれていた(らしい)、なんともおおがかりな事件なのである。

ふんわりとしたミステリーである。 登場するのは、作家で(といっても余り売れてそうにないが)八王子の山の方に引っ込んでいる(八王子から20分ほどバスで行ったあたりらしい)「ぼく」とその「妻」。「ぼく」は讃岐の出身で、奥さんは、高校時代の恩師の娘さんという設定。「僕」のもとにどういうわけか持ち込まれてくる、というか、高校時代の友人で警視庁で刑事をしている「河田」が持ち込んでくる事件を、たちまちのうちに解決していくという設定である。


たちまち解決する、といっても、この奥さん、自分で犯行現場に赴いたりしたり、関係者を聞き込みしたり、といことをするわけではない。現場の捜査をするのは、本職の「河田」刑事であるし、奥さんの指令のまま詳しい調査をするのは、夫の「ぼく」である。奥さんは、話を最初聞いて、推理し、その証拠を固めるために河田刑事や「ぼく」をパシリとして使う、結構人使いの荒い「アームチェア・ディクティティブ」(安楽椅子探偵)である。感じとしては、クリスティの「マープル伯母さん」に近いのだが、作風というか、話の風情からすると、「割烹着」の似合う「和風マープル」である。


収録されているのは「ミミズクとオリーブ」「紅い珊瑚の耳飾り」「おとといのおとふ」「梅見月」「姫鏡台」「寿留女(するめ)」「ずずばな」の7篇。


「ミミズクとオリーブ」は「ぼく」とその奥さんの探偵デビュー。「ぼく」の家の庭にくるミミズクも初登場するし、「ぼく」の奥さんのどことなく武家っぽいというか、古式っぽい様子が窺われるデビュー作である。(設定では、奥さんも英文学の専攻ということになっているのだが、感じる雰囲気は国文学か国史だよな)
起きる事件は、「ぼく」の旧友で遣手の「飯室」の奥さんが逃げてしまった、なんとか行方を掴めないか、というもの。きっかけは度重なる浮気なのだが、その女にまともに対抗する飯室の奥さんもすごい、という印象。

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