収録は
「鬼封会」「凶笑面」「不帰屋」「双死神」「邪宗仏」
の5作品。
民俗学者が主人公のミステリーといえば、井沢元彦の「猿丸幻視行」の折口信夫とかが思い浮かぶ。
学者が主人公となると、その専門的なな知識を活用して、現実の事件を解決するというのが定番なのだが、そこは民俗学というとらえどころのない学問なので、「猿丸幻視行」と同じように、現実の事件もさることながら、古来からの文物や伝承に隠された謎そのものを解くといった風合いのミステリーである。
こうしたミステリーの場合、その文物や伝承そのものが、謎解きの一部になっていることが多くて、その文物やら伝承をつぶさに語ることが、ネタばらしにつながりかねないので、詳細に書くことは慎みたいが、
鬼の面をつけた人間が護摩壇の周囲で踊り狂う、東大寺の「修二会」に似た儀式に、いわゆる「六部殺し」が隠されている「鬼封会」
や
凶々しい笑いを刻んだ「凶笑面」の対極にあるのだが、古びた写真にしかその姿が残されていない喜人面
など、それぞれの一篇ごとに怪しげな道具立てが用意されていて、そのあたりの蘊蓄話をだらだらと追うのも楽しいミステリーである。
このうち「双死神」は日本の「古代における青銅器と鉄器を扱う部族というか民族の交替や、明治のはじめの古墳の当時の県令による大発掘というか大盗掘に端を発する「税所コレクション」の話など、北森 鴻の別シリーズである「宇佐見陶子シリーズ」につながっている。
筆者の北森 鴻が「量産がきかない」と言ったのも尤もで、丁寧につくりこまれた民俗学の種々のコンテンツを楽しむもよし、意表をつく謎解きを楽しむもよし、の短編集である。
