2006年12月アーカイブ

腕利きの古物商 冬狐堂こと宇佐見陶子が、銅鏡の取引をめぐって罠にはめられ、骨董業者の鑑札も剥奪され、あわや古物業界から葬り去られようとする・・・

ってな感じで展開する骨董業界ミステリー、とはいっても謎は、贋作とかいったことではなくて、明治期の国家的な陰謀事件(いやー、ひさびさに聞く由緒正しい表現だな)にまで結びついていく、大がかりな謎である。

もっとも、発端は、競り市で、陶子が、青銅鏡(光に透かすとなにやら影がうつる”魔鏡”という、それなりに怪しげなものなのだが)を手に入れたあたりから始まるので、そうした競り市の様子やら、陶子がはめられる素となる絵画の鑑定や贋作の作り方など、骨董業界、美術業界の”裏”的知識も豊富に用意されていて、本筋とは別のそうしたTipsもまた楽しいのが、北森 鴻のミステリーの良いところだ。


本筋は、蓮丈那智シリーズの「凶笑面」に収録されている短編「双死神」と連動していて日本古代の鉄器にまつわる蘇我と物部の対立に隠されている謎とか、明治初期、堺県知事 税所篤の古墳盗掘の真相まで及んでいく。

最後の方の古墳のトリックは、最初に「双死神」を読んでしまった方はネタバレでちょっと残念だろうが、それを上回る、国家的なミステリーが展開されていくので、良いとしてほしい。
しかし、こうした国家的な陰謀というか企みの話を聞くと、明治期の日本というものの脆弱性というか、列強の中にはさまれた心許なさといったものが、なんとなく現代の私にも伝わってくるのだが、一個の銅鏡から、国家的な陰謀までもっていってしまう、北森 鴻の力量はさすがである。


骨董というか古代の文物の蘊蓄を楽しみながら、宇佐見陶子が冤罪を晴らすための獅子奮迅の奮戦にワクワクするミステリーである。

日本の庶民の一シーンを切り取ることのできる作家ときたら。この人しかいないだろうってな感じに個人的には思っている重松 清氏が「単身赴任」を切り取っていくルポ。

この人の場合、どうかするとこちらの目を潤ませっぱなしの小説や表現に出くわすことが多くて、エラソウにしている「お父さん」としては、ちょっと注意が必要なのだが、このルポは、ちょっと醒めたところから「単身赴任」という事実をきちんと、そのまわりの情感も含めてとらえてある見事な一品である。


時代背景は、2000年頃から2003年頃にかけてのルポなので、バブル時の前に向かいっぱなしのイケイケドンドンの時期でもなく、「失われた10年」のまっただ中のように、出口の見えない暗さばかりでもない、なにかしら光明が見えそうで見えない、見えないようで見えている、中途半端でこそばゆい時期と「単身赴任」と言う家族の形態としては、ひどく中途半端な状態とが妙にマッチングしている。


私自身、幸いというか偶然というか「単身赴任」は、同僚や上司、部下たちがそういった暮らし・状況にあるという第三者的な立場からしか接したことがないので、実際のところはわからないのだが、「自由さ」とそれと同じくらいの「寂しさ」が、登場する一人一人の暮らしのそこかしこにじみでてくる。


登場する「単身赴任」の逸話は15話。


単身赴任の代名詞でもある「札チョン」(「札チョン共和国定例国家の巻」)から、ビジネスが大きく動いている中国・上海(「中国上海的獅子奮迅日本商社戦士の巻」)での単身赴任から南極(「やんちゃな鳶職人、南極へ行く」)まで単身赴任の場所もさまざまであれば、職種も役職もさまざま。

性別も男だけでなく、東京都の小さな島の村の女性教育長の単身赴任のエピソード(「男女三人「島」物語の巻」)まで登場する。


で、それぞれの悩みや暮らしぶりも様々なのだが、そこに共通するのは、

「単身赴任は、一つの家庭から二つの暮らしを生む。
 赴任先で一人暮らしをする父親と、父親(母親)のいない食卓を生む家族」

であり、日本のビジネスシーンと並行して存在する、日本の家族の暮らしの一シーンでもある。


できれば、働く父親や母親をもつ娘や息子たちに「うちのオトウチャン(オカアチャン)、サエナイけど、ガンバってんのかいな・・・?」と思ったときに、読んでほしいルポである。

「凶笑面」でデビューした民俗学者にして探偵役も果たし、おまけに中性的な美人ときている蓮丈那智シリーズの文庫本2冊目。


収録は
「秘供養」「大黒闇」「死満珠」「触身仏」「御蔭講」
の5作品。


1作目は、那智や助手の内藤がフィールドワークにでかけた先で事件に遭遇する設定だったのだが、今回は大学の構内や対談先など、那智たちのフィールド内で起きる事件がほとんど。まあ、1作目の見事な事件の解決手腕で、怪異自体が尋ねてくるほど、その道では名が売れたってことかもしれない。

ただし、フィールド内でおきるからといって、その事件はごく一般の謎解きではなく、それぞれにこってりと民俗学の味付けがされているので、そうした謎解きの周辺のディティールをこてこて味わうのが好きな人も(私もそうなのだが)満足して読める。

例えば

<供養の五百羅漢>の伝説にまつわる飢饉の秘話であったり、

口中に勾玉を押し込まれて死んでいたアマチュア歴史家の事件の中で語られる三種の神器の謎ときであったりして、

どうかすると、こうした周辺を読むためにミステリーを読んでいるような感覚になるあたり、北森 鴻の絶妙の語り口のなせる技なのだろう。しかも、事件もグロテスクすぎず、民俗学にありがちなコケオドシのおどろおどろしさがないあたりも、また良いのである。

これに収録されている最終話「御蔭講」で万年助手らしかった内藤に講師に道が開けそうになってくる。結論は明らかになってはいないが、那智にふりまわされて苦労を重ねている内藤くんの幸運を期待しておこう。

北森 鴻の古物商人が主人公のミステリーとなると、「狐」シリーズの冬狐堂 宇佐見 陶子につながってしまうのだが、この「孔雀連想曲」は目利きではあるのだが商売下手で、ちょっと冴えない風采の雅蘭堂 越名集治が主人公。そしてアシスタントのようにからむのは小悪魔っぽい女子高校生 安積 といったシチューエーションで、古典的といってはなんだが、ちょっと安心できる設定。

収録は
「ベトナム・ジッポー1967」
「ジャンクカメラ・キッズ」
「古久谷焼幻花」
「孔雀狂想曲」
「キリコ・キリコ」
「幻・風景」
「根つけ供養」
「人形転生」
の8篇


いずれも、店の売り物であったり、買い付けに行った先の骨董にまつわる謎解き。

ミステリーっていうのは、事件の謎解きと並んで、使われているシチュエーションとかきっかけとなるモノとかの道具立てが結構重要で、興味を引く道具が用意されていれば、うかうかと作者の手にのっかって読み進んでしまうことになる。
そうした意味で、この連作短篇は、骨董屋という設定と、いわくありげな骨董品という、ワクワクしてしていまう設定と筋立てで、そうした条件がしっかりと満たされている。


国家的な陰謀とか時代の蔭に埋もれてしまった謎といった、こういう骨董ものにありがちな展開がないのも好印象である。骨董・お宝ブームのまだ盛んな折、登場する骨董品を想像しながら、読み進めるのも楽しい短編集であった。

(余計なネタバレなのだが「キリコ・キリコ」はあの現代美術の「キリコ」ではありません)

旅本というのは、旅の記録を読むというほかに、著者を読んでいるようなところがあって、著者の旅ぶりがしっくりくると、その著者のものを続けて読んでしまうが、そりがあわなかったりすると、どうにも読み進められないきらいがある。

そういった意味で、女優さんや歌い手さんの書く旅本というのは、あたりはずれがおおきいのだが、中谷美紀さんのこの本は、美人で神経質な雰囲気がそこかしこにでているあたりが、かえってしっくりきた。

なにしろ、旅の発端というかきっかけは「嫌われ松子の一生」の映画撮影に、とことん絞り尽くされたあげくなのだが、その目的が、「ヨガ」「インド」なのである。
キレーな女優さんなら 「ヨーロッパ」やろー!! 「エステ」やろー!!と思わず呟いてしまうのだが、そのインドを一人旅してしまうところが、この旅本がありきたりの女優の旅本とは違うところだろう。

で、インドはというと、やっぱりインドはインドである。こうした女優さんがヨガをやりに来ようが、その女優さんが、インドで突然ベジタリアンに目覚め、野菜のカレーなどばかりを食して、タンドーリチキンなぞには目もくれなくなろうが、やはりインドはインドらしくて、バクシーシはあるし、ガイドやリキシャの運転士は、隙あればボロうとするし、盗難にはあうし、でも、親切な人はしっかり親切で、やっぱり暑い、という具合なのである。

こうしたインドに対して、チューブ入りワサビをもちこんで消毒(といっても、食後になめるといった乱暴なものなのだが)したり、たまには中華料理、タイ料理を食べて、東アジアの人としてのアイデンティティを取り戻したりするのだが、最終的には、「インド」に屈伏して結構ボロボロになってしまう、という定番的展開となってしまうのが、やはりインド旅行記らしい。

一定の地歩を確立している女優さんの一人旅なので、ほかのバックパッカーものと違って、きれいなところが多いし、危ないところは少ないのだが、中谷美紀さんの違った一面が覗ける旅本である。

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