2007年8月アーカイブ

こんな手練れがいたとはしりませんでした、と言うのが第一印象である。
物語の舞台は、大正9年、第一次大戦後のシンガポール。華僑の有力一族の呂家の娘、白蘭が殺害されている現場に主人公 林田がでくわすところから始まるのだが、のっけからぐんぐん読まされて、最後まで引きずられていくこと間違いなしである。


展開としては、犯人に間違われた主人公の逃亡行とそれと並行して、彼がシンガポールに来て、日本人の顔役になっていくいきさつや廃娼(売春宿の廃止と娼婦のシンガポールからの追放運動)、呂一族の若き統率者である呂鳳生との再会と、弟の虎生とのトラブル、そして現地のイギリス人社会の人間模様、華人社会の勢力争いなどがオムニパス的に語られて、主人公がシンガポールから逃亡する最終章へと流れていくのが大きな流れ。


最後のほうで、白蘭の本当の父親や、華人社会の秩序を維持するための、なんとも冷静(冷酷というべきか)な決断が明らかにされて、それがまあ、白蘭殺しの真相なのだが、こうした個人的な怨嗟に基づかない組織的な理由(きわめて民族的でもあるし、太平洋戦争の隠された遠因という意味で、きわめて政治的でもある)に基づく殺人っていうのも、時代的にはありえたのだろうな、国家の利益を巡ったやりとりというものに慣れていない戦後生まれの私としては、無理矢理納得せざるをえないところはあるのだが、読み物としては、良くできているのは間違いない。

こうした犯人捜しとは別にこの本で楽しめるのは、既に日本では失われてしまった「植民地」というものがもつなんとはない倦怠感と、南アジアという立地のもつねっとりとした暑さだろう。とりわけ、一環して流れる植民地のもつ出口のなさそうな閉塞感と疲れのようなものは、もはやリアルの世界ではなかなか経験できないものだ。

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