2008年12月アーカイブ

美貌の古美術商 宇佐美陶子の旗師・冬狐堂シリーズ。 旗師とは店を持たない云々っていうのは、このシリーズを一度でも読んだことのある方なら、頭のどこかに記憶させられてしまうだろうから省略して、今回のシリーズでは、そうした厳しい商売をしている彼女に、飛蚊症という眼の障害が出る。 古美術商にとって眼は命。この病気を抱えた彼女の苦境につけこむかのように、様々なトリックやフェイクが仕掛けられる、ってな感じなのが、この一冊。

収録は

「倣雛心中」
「苦い狐」
「瑠璃の契り」
「黒髪のクピド」

の四篇。

登場する美術品は、木造の人形(倣雛心中)、若くして死んだ女性画家の抽象画(苦い狐)、色ガラスの切子椀(瑠璃の契り)、生き人形(黒髪のクピド)で、今までの陶器やら磁器、あるいは出土品といった、「古美術」という言葉から印象されるものとは、ちょっと違う品々が現れる。

それは、陶子や友人の硝子の過去の一面が少し明らかになるのとは無縁ではない。

三軒茶屋にあるビアバー「香菜里屋」のシリーズの第3作である。

収録は

「蛍坂」、「猫に恩返し」、「雪待人」、「双貌」、「狐拳」

の5作品。

今回の収録作品は、この作品の主人公でホームズ役である、ビアバーのマスター 工藤も、前の2シリーズでは、ワトソン役を果たしていた飯島七緒も、どことなく控えめで、随所、随所できちんと役回りを果たすのだが、なんとなく脇役っぽい印象を受けてしまう。

それぞれのお話をかいつまんで記すと

「蛍坂」は、10数年前に恋人を振り切って中近東に渡ったものの、戦場に気追わされ、才能の限界を感じ、今は故郷の家業を継いでいる元カメラマンが、恋人とわかれた三軒茶屋の坂道で発見する、恋人の当時の真意

であり、

「猫に恩返し」は、アメリカの昔のTVドラマっぽいフェイクの裏に隠された、場末のモツ焼き屋の主人と常連たちの心温まる企み


「雪待人」はバブル時に三軒茶屋で計画され、老舗の反対で潰された再開発計画の秘められた、老舗の娘の悲恋話。

ビアバー香菜里屋シリーズの第2弾。

収録は

「十五周年」
「桜宵」
「犬のお告げ」
「旅人の真実」
「約束」

の5つ。


で、その中身はというと

「十五周年」は店の常連が、縁の薄い結婚式に招かれたことを端緒に始まる、すでに15年前に潰れた居酒屋にまつわる犯罪、と見せかけて・・・

そして表題作「桜宵」は、「香菜里屋へ行ってくれ」という亡き妻からのメッセージを受け取った託した夫が店に訪ねてくるが、そのメッセージに隠された妻の思いは・・・


といった感じで、あまり書くとネタばれが過ぎて洒落にならなくなるから、途中でやめておくが。どんでん返しの先に、さらにどんでん返しがあって、いやー、上手く騙されました、参りましたと、手練れの手品師の技に見惚れているような感覚で、うまうまと最後まで一気に読んでしまう。

そして、この短編に共通の「気になる料理」ってのが随所に出てきて、こいつもまた密かな楽しみではある。

例えば

「桜宵」は薄緑色(御衣黄)の桜飯

「犬のお告げ」の岩牡蠣(夏牡蠣)のガーリックバターかけ

と、思わず生唾を飲み込んで、どうかすると奥さんに作ってくれないか、などと無謀な頼みをしかねなくなってしまう。


なにはともあれ、香菜里屋のドアを開いて、ストールに腰掛けてみようではありませんか、ねえ。

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