北森 鴻 「蛍坂」(講談社文庫)

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三軒茶屋にあるビアバー「香菜里屋」のシリーズの第3作である。

収録は

「蛍坂」、「猫に恩返し」、「雪待人」、「双貌」、「狐拳」

の5作品。

今回の収録作品は、この作品の主人公でホームズ役である、ビアバーのマスター 工藤も、前の2シリーズでは、ワトソン役を果たしていた飯島七緒も、どことなく控えめで、随所、随所できちんと役回りを果たすのだが、なんとなく脇役っぽい印象を受けてしまう。

それぞれのお話をかいつまんで記すと

「蛍坂」は、10数年前に恋人を振り切って中近東に渡ったものの、戦場に気追わされ、才能の限界を感じ、今は故郷の家業を継いでいる元カメラマンが、恋人とわかれた三軒茶屋の坂道で発見する、恋人の当時の真意

であり、

「猫に恩返し」は、アメリカの昔のTVドラマっぽいフェイクの裏に隠された、場末のモツ焼き屋の主人と常連たちの心温まる企み


「雪待人」はバブル時に三軒茶屋で計画され、老舗の反対で潰された再開発計画の秘められた、老舗の娘の悲恋話。

そして、「双貌」は、香菜里屋の常連の作歌 秋津の作中話にまつわる友情話。

最後の「狐拳」は、ほのかな憧れを抱く、親戚の青年の家で飲んだ、幻の焼酎を探す娘の話なのだが、その焼酎はいまだかって売り出されたことのない焼酎の名前。果たして、その焼酎の正体と、その捜索を依頼する青年の真意は・・・

といった感じで、読み始めると、ずんずんと読み進めていけること間違いないのだが、全体に静謐な印象が漂う作品群である。
それは、舞台となる香菜里屋の風情と、マスターの工藤の雰囲気が、かなり影響しているのは間違いないだろう。しかし、その静謐さが、清純なものが持つ頼りなさではなく、深山がかもし出す、厚みのある深い清冽さのようなイメージあるように思う。

お薦め度 ★★★★

で、5作とも手練れの作品であることに間違いなく、いずれもお勧めの作品ばかりなのだが、ここで、見事な隠し味を感じさせるのが、香菜里屋で出される料理の数々である。

ほんの一端を紹介すると(どの話に登場するかは、読んで確かめてね)

きぬかつぎの揚げ物と春玉ねぎのカニの詰め物揚げ

トロの焙り焼きの生ライスペーパー巻き

芝えびの掻揚げ風フライのカレーソースがけ

京野菜とそばがきのポトフ

牡蠣のワイン蒸しのピーナツオイルがけ

フィッシュ&チップスの生ハム巻き

賽の目切りのトマトと海老とイカの素揚げの実山椒ソース

キノコとジンジャーソース仕上げのサーモンソテー

などなど

うーむ、こんなものが、常時食せるビアバーなら通い詰めになりそうですなー


休日の昼下がりに一気に読むミステリーとしてお勧め。

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このページは、辺境駐在員が2008年12月 6日 15:42に書いたブログ記事です。

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