明治元年生まれの葛城冬馬が、東京大学医学部のベルツ教授の給仕となるところから始まるミステリー。
彼が選ばれたのは、明治13年になっても、髷を残していたから。というのも、彼の雇い主であるベルツがとんでもない日本贔屓で、おまけにベルツの宿舎はお抱え外国人のサロン状態で、明治の御代の、数々の不思議な事件の謎解きに巻き込まれていく冬馬少年。さて、彼の運命や如何に、といった感じで、楽しく読めるミステリーだ。
収録は
「なぜ絵版師に頼まなかったのか」
「九枚目は多すぎる」
「人形はなぜか生かされる」
「紅葉夢」
「執事たちの沈黙」
で、最初の「なぜ・・・」で冬馬がベルツのところに雇われるところから始まり、「執事たちの沈黙」では、冬馬が東京大学の医学部の主任になっていて、9年の歳月が経過している。謎解きのほかに、主人公の成長の様と、名脇役の市川歌之丞(あ、この人は、物語によって名前と職業を次々と変えていくから注意してね)の掛け合いもまた楽しいのだが、激動の時代であった「明治」の時代の匂いを味わうのも、「北森ミステリー」の楽しみである。
例えば
「陸蒸気!・・・なんでも轟音で吼え、馬の何倍もの速度で走る黒鉄の化け物だとか。だが、陸蒸気の運賃は下等で三十七銭五厘・・・」(「なぜ絵版師に頼まなかったのか」)
や
「湯島あたりの旧武家屋敷、というより大名屋敷は、かつての豪邸はすべて破壊され尽くされ、更地にとなった。ぜいを尽くした書院造りは引き倒され、築山は削り取られて・・・」(「執事たちの沈黙」)
などなど、「明治」という私的には、日本人の意気を感じさせるとともに、どことなく背伸びした、いびつさを感じさせる時代の風情があふれているではありませんか。
残念なのは、筆者の北森 鴻が2010年1月に急逝したこと。筆者の寿命がもう少しあれば、この冬馬も香奈里亜のマスターや冬狐堂に匹敵するキャラクターに育っているだろうになー、と残念しきり、である。
それと、収録されているミステリーは、いずれも著名なミステリーのもじりだから、興味のある人は原作もどうぞ

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